[8月7日18:00.天候:不明 十条達夫の家・地下区画 敷島孝夫、1号機のエミリー、8号機のアルエット]
“女帝”エミリーの威圧により、平伏したバージョン3.0から頂戴した鍵を手に、施錠されていたドアを開けた。
奥には下に降りるゴンドラがあった。
「起動キーは刺さってるな。よし」
敷島が起動キーを回すと、ゴンドラの電源が入る。
「表向きは荷物運搬用ということにしているわけか。ますます秘密の研究所臭いぜ」
それに乗り込んで下に降りる。
「! 何か聞こえないか?」
敷島の声にエミリーとアルエットが耳を澄ます。
だが、ゴンドラが降り切るまで、その音の答えを出すことはなかった。
ガチャンとゴンドラが最下層に到着する。
「やっぱり何か聞こえる。……水の音?」
「あちらの・通路から・聞こえます」
と、エミリーは鉄扉の奥を指さした。
「おいおい、漏水でもしてるのか?……まあ、かなりオンボロな造りだけど……」
敷島達はゴンドラを降りると、いくつかある鉄扉のうち、エミリーが指さしていない方を開けた。
因みに最下層部分、ゴンドラが到着する部分には明かりが点灯しており、それなりに明るい。
1つのドアを開けた通路に入ると、水の音は小さくなった。
通路は湿気はあるものの、水浸しとか、そういうことはない。
奥へ行くと、またエレベーターがあった。
ゴンドラではなく、ちゃんとしたエレベーターだ。
小さいものではなく、これまた荷物運搬に使うつもりか、よく大きなビルなどにある貨物用エレベーターのような感じだ。
しかし、ボタンを押しても起動することはなかった。
「これだけの造りだ。どこかに制御室とか管理室みたいな所があるだろう。そこへ行けば、このエレベーターを動かせるかもしれないな」
因みにボタンは上しかなかった。
恐らく、敷島達が乗って来たゴンドラとはまた別の地上に到着するのだろう。
そこが、どこかだ。
他に3つのドアがあったが、エミリーが指さしたドア以外は鍵が掛かっていた。
で、バージョン3.0が寄越した鍵は合わなかった。
「どれ、1番嫌な予感のするドアから入らなきゃいけないってか。エミリーはともかく、アルエットは耐水性は?」
「海水でも大丈夫です」
「……まあ、そうだろうな。行くぞ」
敷島がドアを開けると、右手をショットガンに変形させたエミリーが突入する。
しかし、中には誰もいなかった。
通路の先には更に下に降りる階段があって、そこを降りると……。
「うわっ、やっぱり!」
冠水していた。
幸い、深さは足首が浸かるほどだ。
「ちょっと待て。確か、ゴンドラの到着する場所に、あれがあったな」
それは清掃用具が置かれているスペース。
デッキブラシやモップの他にゴム長靴も置かれていた。
「幸い、俺の靴のサイズに合うのがあるな。エミリーは?」
「ノー。この・ブーツ・自体が・耐水性・です」
「何だ、そうか」
「アルエット、あなたは・履き替えて」
「はい」
アルエットの足のサイズはどれくらいなのだろうかと思ったが、25cmだった。
大きいのか小さいのか分からない。
仮に大きいとしても、ロイドとして足の裏に何か仕掛けられているのかもしれないと思った。
「よし。ちょっと動きにくいが、これで行こう」
3人は気を取り直して、冠水区間に入ることにした。
バシャバシャバシャと冠水した廊下を進む。
ここも天井灯などは全てではないにせよ点灯していたので、多少は薄暗いが、懐中電灯が必要なほどではない。
ドアは水圧で鍵が掛かってなくても開けにくかったが、エミリーが持ち前の馬力でこじ開けた。
「敷島さん・気をつけて!」
「なにっ!?」
水の中から、ピラニアを大型化したような魚が2匹同時に飛び掛かって来た。
エミリーが即座にショットガンを発砲する。
ピラニアのような魚はショットガンに被弾すると、バラバラに“壊れた”。
「さ、魚型のロボット!?」
「……ドクター・アリスが・廃ホテルで・遭遇した・タイプと・思われます」
「あっ、あれか!」
アリスが東日本大震災による大津波で水没した廃ホテルを探索中、魚型のロボットに襲われたことがある。
サイボーグ化したドクター・ウィリーが潜んでいた廃ホテルで、東北地方沿岸部の断崖絶壁にそびえ立っていたのだが、大津波によって損壊、及び大地震による地盤沈下によってほとんどのエリアが水没していた。
攻撃方法はピラニアと同じく、鋭い牙で敵に食らいつくという極シンプルなもの。
バトル・フィッシュという名前がアリスによって付けられた。
但し、耐久性は弱く、マグナムより弱いハンドガンでも1発や2発で破壊できるという欠点がある。
まあ、水中で銃など撃てるわけがないという驕りもあるだろう。
しかし、こうして水面に出てくると、正に狙い撃ちである。
「……何でこれが稼働してるんだ?」
「水中に・適応した・タイプが・潜んで・いるかも・しれません。気をつけて・ください」
「……だな」
だが、更に奥に進むに連れて、漏水による冠水は想定外にせよ、元々が水に関係するロボットを研究する施設ではなかったかという疑惑が出て来た。
「……ちょっと待てい!」
何故なら、奥に進むに連れて水かさが増え、一部の場所は深くなっていて、とても危険で進めない所があったからだ。
それはまあ100歩譲るとして、問題なのは……。
「下がって・ください!」
「でーっ!?何で鮫がこんな所にいるんだよっ!?海水じゃないだろ!?」
ホオジロザメみたいな物が数匹回遊していて、敷島達の姿を見つけると、襲ってきたからだ。
エミリーはショットガンとマグナムを駆使して応戦した。
で、そのうちの一体は大きなダメージを受けて爆発した。
「これもロボットか!?」
「そのよう・です。鮫型の・ロボット・です」
「海洋テロ・ロボットを研究する施設だったのか!?……海から離れてるくせに」
だからこそ、警察や公安機関からの目を誤魔化せたのかもしれない。
また、海洋といったところで、水は全く潮の香りがしない。
明らかに真水だ。
もっとも、そこはロボットだから、真水でも塩水でもどっちでも良いのだろう。
耐水性さえクリアできれば、あとは何とかなると思われる。
エミリー達みたいな人間型ともなればそういうわけにもいかないが、魚型は良いのかもしれない。
鮫の攻撃を交わしつつ、奥の部屋に入ると制御室になっていた。
「……電源が生きているせいか、ここのコンピューターも生きているみたいだな」
敷島はキーボードを叩いた。
「……うん、これであのエレベーターが起動できそうだ。ついでに電子ロックされている所も根こそぎ開けちゃえい」
敷島が鼻歌混じりでキーボードを操作していると、
ドシーン!!
「うわっ、ビックリした!?な、何だ!?」
「社長、直ちに・水槽の・排水を・してください」
「何だって!?」
この制御室は水槽とも直接繋がっている。
つまり、制御室から鮫型ロボットのいる水槽は丸見えなわけだ。
で、当然、鮫型ロボットからもそれが見えるわけで。
敷島達を敵と認識した鮫型ロボットは、制御室側のガラスを破壊せんと突進してきたのである。
分厚いガラスにヒビが入った。
まだそこから水がしみ出す段階ではない。
だが、鮫型ロボットは引き返して、また突進しようとしている。
おあいにくさま、まだ敷島達を敵と認識していない個体がのんきに泳いでいるため、そいつに邪魔されてやり直しをしたりしている。
どうやらこいつら、連携はできないようだ。
まだ試作品なのだろうか。
「このまま・ですと・制御室が・水没します!」
「ま、マジか!?え、えーと……排水するには……。これか!」
敷島はあるボタンを押した。
排水ではなく、水槽と制御室の間のガラスを更に覆うシャッターが降りて来た。
「ま、まあ……これでもいいな!」
だが、
『油圧系統に異常を感知。シャッター降下を中止します』
という表示がモニターに出て、シャッターが途中で止まってしまった。
ドシーン!!
「わあっ!や、ヤベェ!このままだと、水槽が破壊される!ったく!とんでもねぇ研究所だ!」
敷島達、ピンチ!
更にもう1匹の個体も、ようやく敷島達を敵と認識したのか、両目を赤く光らせ、もう一個体と同じく、体当たりを始めた。
時間的猶予は明らかに無かった。
“女帝”エミリーの威圧により、平伏したバージョン3.0から頂戴した鍵を手に、施錠されていたドアを開けた。
奥には下に降りるゴンドラがあった。
「起動キーは刺さってるな。よし」
敷島が起動キーを回すと、ゴンドラの電源が入る。
「表向きは荷物運搬用ということにしているわけか。ますます秘密の研究所臭いぜ」
それに乗り込んで下に降りる。
「! 何か聞こえないか?」
敷島の声にエミリーとアルエットが耳を澄ます。
だが、ゴンドラが降り切るまで、その音の答えを出すことはなかった。
ガチャンとゴンドラが最下層に到着する。
「やっぱり何か聞こえる。……水の音?」
「あちらの・通路から・聞こえます」
と、エミリーは鉄扉の奥を指さした。
「おいおい、漏水でもしてるのか?……まあ、かなりオンボロな造りだけど……」
敷島達はゴンドラを降りると、いくつかある鉄扉のうち、エミリーが指さしていない方を開けた。
因みに最下層部分、ゴンドラが到着する部分には明かりが点灯しており、それなりに明るい。
1つのドアを開けた通路に入ると、水の音は小さくなった。
通路は湿気はあるものの、水浸しとか、そういうことはない。
奥へ行くと、またエレベーターがあった。
ゴンドラではなく、ちゃんとしたエレベーターだ。
小さいものではなく、これまた荷物運搬に使うつもりか、よく大きなビルなどにある貨物用エレベーターのような感じだ。
しかし、ボタンを押しても起動することはなかった。
「これだけの造りだ。どこかに制御室とか管理室みたいな所があるだろう。そこへ行けば、このエレベーターを動かせるかもしれないな」
因みにボタンは上しかなかった。
恐らく、敷島達が乗って来たゴンドラとはまた別の地上に到着するのだろう。
そこが、どこかだ。
他に3つのドアがあったが、エミリーが指さしたドア以外は鍵が掛かっていた。
で、バージョン3.0が寄越した鍵は合わなかった。
「どれ、1番嫌な予感のするドアから入らなきゃいけないってか。エミリーはともかく、アルエットは耐水性は?」
「海水でも大丈夫です」
「……まあ、そうだろうな。行くぞ」
敷島がドアを開けると、右手をショットガンに変形させたエミリーが突入する。
しかし、中には誰もいなかった。
通路の先には更に下に降りる階段があって、そこを降りると……。
「うわっ、やっぱり!」
冠水していた。
幸い、深さは足首が浸かるほどだ。
「ちょっと待て。確か、ゴンドラの到着する場所に、あれがあったな」
それは清掃用具が置かれているスペース。
デッキブラシやモップの他にゴム長靴も置かれていた。
「幸い、俺の靴のサイズに合うのがあるな。エミリーは?」
「ノー。この・ブーツ・自体が・耐水性・です」
「何だ、そうか」
「アルエット、あなたは・履き替えて」
「はい」
アルエットの足のサイズはどれくらいなのだろうかと思ったが、25cmだった。
大きいのか小さいのか分からない。
仮に大きいとしても、ロイドとして足の裏に何か仕掛けられているのかもしれないと思った。
「よし。ちょっと動きにくいが、これで行こう」
3人は気を取り直して、冠水区間に入ることにした。
バシャバシャバシャと冠水した廊下を進む。
ここも天井灯などは全てではないにせよ点灯していたので、多少は薄暗いが、懐中電灯が必要なほどではない。
ドアは水圧で鍵が掛かってなくても開けにくかったが、エミリーが持ち前の馬力でこじ開けた。
「敷島さん・気をつけて!」
「なにっ!?」
水の中から、ピラニアを大型化したような魚が2匹同時に飛び掛かって来た。
エミリーが即座にショットガンを発砲する。
ピラニアのような魚はショットガンに被弾すると、バラバラに“壊れた”。
「さ、魚型のロボット!?」
「……ドクター・アリスが・廃ホテルで・遭遇した・タイプと・思われます」
「あっ、あれか!」
アリスが東日本大震災による大津波で水没した廃ホテルを探索中、魚型のロボットに襲われたことがある。
サイボーグ化したドクター・ウィリーが潜んでいた廃ホテルで、東北地方沿岸部の断崖絶壁にそびえ立っていたのだが、大津波によって損壊、及び大地震による地盤沈下によってほとんどのエリアが水没していた。
攻撃方法はピラニアと同じく、鋭い牙で敵に食らいつくという極シンプルなもの。
バトル・フィッシュという名前がアリスによって付けられた。
但し、耐久性は弱く、マグナムより弱いハンドガンでも1発や2発で破壊できるという欠点がある。
まあ、水中で銃など撃てるわけがないという驕りもあるだろう。
しかし、こうして水面に出てくると、正に狙い撃ちである。
「……何でこれが稼働してるんだ?」
「水中に・適応した・タイプが・潜んで・いるかも・しれません。気をつけて・ください」
「……だな」
だが、更に奥に進むに連れて、漏水による冠水は想定外にせよ、元々が水に関係するロボットを研究する施設ではなかったかという疑惑が出て来た。
「……ちょっと待てい!」
何故なら、奥に進むに連れて水かさが増え、一部の場所は深くなっていて、とても危険で進めない所があったからだ。
それはまあ100歩譲るとして、問題なのは……。
「下がって・ください!」
「でーっ!?何で鮫がこんな所にいるんだよっ!?海水じゃないだろ!?」
ホオジロザメみたいな物が数匹回遊していて、敷島達の姿を見つけると、襲ってきたからだ。
エミリーはショットガンとマグナムを駆使して応戦した。
で、そのうちの一体は大きなダメージを受けて爆発した。
「これもロボットか!?」
「そのよう・です。鮫型の・ロボット・です」
「海洋テロ・ロボットを研究する施設だったのか!?……海から離れてるくせに」
だからこそ、警察や公安機関からの目を誤魔化せたのかもしれない。
また、海洋といったところで、水は全く潮の香りがしない。
明らかに真水だ。
もっとも、そこはロボットだから、真水でも塩水でもどっちでも良いのだろう。
耐水性さえクリアできれば、あとは何とかなると思われる。
エミリー達みたいな人間型ともなればそういうわけにもいかないが、魚型は良いのかもしれない。
鮫の攻撃を交わしつつ、奥の部屋に入ると制御室になっていた。
「……電源が生きているせいか、ここのコンピューターも生きているみたいだな」
敷島はキーボードを叩いた。
「……うん、これであのエレベーターが起動できそうだ。ついでに電子ロックされている所も根こそぎ開けちゃえい」
敷島が鼻歌混じりでキーボードを操作していると、
ドシーン!!
「うわっ、ビックリした!?な、何だ!?」
「社長、直ちに・水槽の・排水を・してください」
「何だって!?」
この制御室は水槽とも直接繋がっている。
つまり、制御室から鮫型ロボットのいる水槽は丸見えなわけだ。
で、当然、鮫型ロボットからもそれが見えるわけで。
敷島達を敵と認識した鮫型ロボットは、制御室側のガラスを破壊せんと突進してきたのである。
分厚いガラスにヒビが入った。
まだそこから水がしみ出す段階ではない。
だが、鮫型ロボットは引き返して、また突進しようとしている。
おあいにくさま、まだ敷島達を敵と認識していない個体がのんきに泳いでいるため、そいつに邪魔されてやり直しをしたりしている。
どうやらこいつら、連携はできないようだ。
まだ試作品なのだろうか。
「このまま・ですと・制御室が・水没します!」
「ま、マジか!?え、えーと……排水するには……。これか!」
敷島はあるボタンを押した。
排水ではなく、水槽と制御室の間のガラスを更に覆うシャッターが降りて来た。
「ま、まあ……これでもいいな!」
だが、
『油圧系統に異常を感知。シャッター降下を中止します』
という表示がモニターに出て、シャッターが途中で止まってしまった。
ドシーン!!
「わあっ!や、ヤベェ!このままだと、水槽が破壊される!ったく!とんでもねぇ研究所だ!」
敷島達、ピンチ!
更にもう1匹の個体も、ようやく敷島達を敵と認識したのか、両目を赤く光らせ、もう一個体と同じく、体当たりを始めた。
時間的猶予は明らかに無かった。