日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

原子力発電所「Yankee Rowe」の静かな終焉とくらべて

2011-03-30 14:12:03 | 海外旅行・海外生活
1971年、米国ニューヨーク州の州都Albanyに仕事の関係で一夏滞在した。イエール大学に留学してから5年ぶりのニュー・イングランドである。単身の身軽さをこれ幸いと、週末になると一泊しながらよくドライブに出かけた。お気に入りのルートの一つがMohawk Trailと名付けられた2号線であった。Albanyから東行してマサチューセッツ州に入ると落ち着いた大学町でもあるWilliamstownが出迎えてくれるが、ここを起点としてやがてDeerfield Riverとつかず離れずの2号線をおよそ100キロほど走るとGreenfieldに着く。これがMohawk Trailであるが、Greenfieldの手前で道を少し南に逸れるとShelburne Fallsという小さな町があって、Deerfield Riverに架かっている「Bridge of Flowers」が名所になっている。


この橋のたもとに土産物店というか雑貨屋をかねたギャラリーがあって、中に入ると一見油絵のように見える人物画が目についた。よく見ると普通の紙に画かれているようである。店番の女主人に尋ねるとその絵は彼女が独特の「ろう画法」で画いたものだという。面白いので一枚買い求めたところ、台紙の裏に次のような説明書が貼り付けられていた。


1980年代の中頃このギャラリーを訪れたときは女主人の姿はなく、店番の男性に尋ねたらそれは母で何年か前に亡くなったとのことであった。「Bridge of Flowers」を最後に訪れたのは2000年9月で、その時は店が影も形も無くなっており、30年の変遷を思い知らされた。

つい昔話に身を入れてしまったが、これからが本題である。このMohawk Trailのほぼ中頃からZoar Rdに入り北上したところにRoweという町がある。Google EarthでRowe,Massachusetts,United Stateと検索すると連れて行ってくれる。ここが通称「Yankee Rowe」で知られた米国では3番目、ニューイングランドでは最初の商業発電のための原子力発電所が建設されたところなのである。1958年に建設を始めて1960年に完成し、1961年に運転を開始した。こんなところに原子力発電所があるなんてもっけの幸いとばかり、この時、「Yankee Rowe」の見学に出かけたのである。山中のそして湖の畔に作られた未来都市のような建造物に、これが原子力発電所かと感動した覚えがある。放射能が洩れてくるとかいうような恐れは何一つ感じることなく、見学者コースをたどった。

「Yankee Rowe」は本来6年間稼働の予定であったが、185MWのこの小型の原子炉は結局30年以上にわたって運転を続け、経済的な理由から1992年に運転を永久に停止することになった。1993年に発電所の解体が始まり、14年かかって2007年にその作業が終了した。その作業の様子は「Yankee Rowe」に簡潔にまとめられている。使用済み核燃料を保存・運搬用のキャニスターに収め、さらにそれを格納する大がかりな「使用済み核燃料保存設備」が新に建造されたものの、それ以外の一切の施設がすべて撤去されて建設用地が元の状態に戻された様子を写真で写真で知ることが出来る。これでかっては1600エーカーあった敷地が「使用済み核燃料保存設備」に必要な2エーカーだけになってしまった。撤去に要した費用は6億800万ドル。しかしそれで終わりではなく「使用済み核燃料保存設備」の維持に毎年800万ドルかかっているとのことである。

福島第一原発の原子炉も操業30年でお役目を終えて静かな終焉を迎える道もあったのでは無かろうか。そう思うと今回の悲運が痛ましい。