日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

思考停止してしまった京都大学 入試問題ネット投稿事件

2011-03-04 15:01:55 | 学問・教育・研究
連日朝日新聞が入試問題ネット投稿事件を朝刊第一面で報じている。さらには第二面に次のような見出しの記事があった。


要点はこうである。


松本総長が本当にこのようなことを言ったのかどうか釈然としないが、私としてはこの記事に従って話を進めざるをえない。私は昨日の入試問題ネット投稿事件は試験監督が甘かったせい?で、試験監督の任務として《不正行為を摘発するというよりは、起こさせないことに試験監督は全力を傾注すべきなのである。その任務が厳正に遂行されていたなら、今回の事件は必ずや防げた筈である》と述べたばかりなので、松本総長の言明通りに監督が厳正になされていたのであれば、それなら何故入試の真っ最中に受験生が入試問題をネットに投稿し、しかもネット上の解答に目を通し得たのか説明がつかなくなってしまう。総長はこの言葉に続いて、「しかし現実にこのようなことが生じてしまった以上、試験監督になんらかの落ち度があっと思わざるを得ない。ただ現段階では当時の現場の状況については調査中であるので、全容が明らかになり次第報告いたします」とでも述べたのではないか、と私としては思いたいので、だからこの記事に釈然としないのである。しかし釈然としないと言えば、この問題が発生したときの京都大学の対応がそうであった。

「新手のカンニング」であると認識しておれば、最初の対応から違っていただろう。入試と限らず試験にはカンニングがつきものである。私が行った学期試験でもしカンニングがあったのではないかと疑うような事態が起こった場合に、その対処は私の責任において私が行う。大学の入試で同じような状況が発生したときも、大学の責任においてまず対処すべきなのであった。今回の場合でもYahooの掲示板に入試問題が投稿された事実を大学が確認した上で、その事実を迅速に公表し全国の大学入試関係者の注意を喚起することがまずなすべきことであろう。そして出来る限り早い時期に答案用紙のなかからカンニングが疑われる答案を調べ上げ、灰色の受験者を同定するべきなのである。京大の場合と状況は違うが、同志社大学では受験者の答案用紙とネット上の「解答」との照合を行い、類似した答案が数十件あったものの不正をした受験生の特定ができなかったことを先ず明らかにしている。京都大学もそこまで行った上、受験生の特定が自らの手で行うことが困難だと判断した場合に、さてどうするか、警察の介入を含めて次の採るべき行動を決めるべきであった。

新聞報道によると、京都大学は2月26日に英語の試験が終わった直後の午前11時半頃に外部からの電話で入試問題のネット投稿を知ったとのことである。そして28日には警察へ被害届を提出する予定であったが、提出に至らなかったことをその午後に明らかにしている。すなわち学内で具体的な対策を考えその計画案も練らない先にはやばやと警察に駆け込んだことになる。ところでこの被害届がどうなったのか、改めてネットで調べてみてもその情報が見つからなかったが、今日の朝日新聞の記事に「京大はこの日(3日)、京都府警に被害届を提出」とあるので、ようやく3日になって被害届を出したことが確認された。その意味では正式な警察への手続きがとられる前に、警察がはやくも動き出して投稿した受験生を特定してしまったのである。そのうえこの受験生は偽計業務妨害容疑で逮捕されてしまい、今やマスメディアの標的になっている。京都大学が警察に受理もされなかった被害届を出しに行ったばかりに、警察に偽計業務妨害容疑という口実を与えてしまい、後は警察独自の理屈付けでこれまでのことが運ばれてしまったようだ。京都大学の思慮を欠いた衝動的な行動が警察にフリーハンドを与えてしまったとも言える。

ところで今回、なぜネットにこの情報が広まったかといえば、朝日新聞の報道ではこうである。

ネット投稿 試験直後に京大新聞指摘 ツイッターで拡散

 26日にあった京都大の入試問題が試験中にネット掲示板に投稿されたのを、京大公認団体の学生新聞「京都大学新聞社」が、英語の試験直後に気づき、ツイッターで指摘していた。大学への最初の指摘は、京大新聞が気づく約50分前だったが、ネット上に広がったのは、大学新聞がきっかけになったとみられる。

 京都大の英語の試験は午前9時半から午前11時半まで。

 京大新聞の学生記者は正午すぎに、広報課からメディア向けの英語の試験問題を窓口で受け取った。問題文の出典をインターネット上で調べていたところ、「ヤフー知恵袋」で、英語の試験問題2問の英訳を求める質問を発見した。

 午後0時19分、京大新聞のツイッター上に「京大入試 試験問題流出か?」と、「ヤフー知恵袋」のアドレスと共に書き込んだところ、投稿を転載するリツイートが広がり、ネット上で話題になったという。京大新聞は「速報性を重視してツイッターに流した」としている。
(2011年3月1日16時59分)

京大新聞の学生記者がツイッターに流すに先だった京大側にその事実を知らせ、対応を考えた方がいいですよ、とぐらいは言っておれが、しばらくニュースを流すのは待ってくれとは言われたかも知れないが、大学側も余裕を持って対処に専念出来たかもしれない。昔を懐かしんでも仕方が無いが、これもご時世というものだろう。

新型(豚)インフルエンザが流行した2009年のこと、私は新型(豚)インフルエンザに対する京都大学の特筆すべき指針で京都府下の大学がとった処置について、《府下の国公立を含む大学、短期大学全47校のうち、京都大を除く46校が休校・登校停止の措置をとるなど、京都大学を除いてはまったくの思考停止状態に陥ったようである。京都大学だけは独自の対応策をとった》と述べ、京都大学のとった行動を《これが実に素晴らしい。これこそ研究者・学者の社会的責任を体現したものと言える》と称揚し、健全な理性の府の存在を厳然と世間に知らせた古巣の大学を嬉しく思った。その思いがあるだけに、今回の入試問題ネット投稿事件で京都大学の対応は思考停止状態下になされたとしか思いようがないのが残念である。