日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

度肝を抜かれたザ・シンフォニーホールのトイレ行列

2010-06-18 18:04:49 | 音楽・美術
去る15日、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで催された「西本智美指揮 スミ・ジョー イン・コンサート (リトアニア国立交響楽団)」に行ってきた。三月頃だったかたまたま新聞紙上の広告が目に止まり、スミ・ジョーさんとは一緒に朝鮮の歌曲「同心草」を歌った?ことでもあり、是非生の歌声を聴きたくなってチケットを購入したのである。

一部はオペレッタ「こうもり」序曲で始まり、その後スミ・ジョーさんが登場してほぼ1時間、彼女お得意のコロラトゥーラをたっぷり聴かせて貰った。大人しい選曲でほとんど聴き慣れた歌だったのでつい一緒に口ずさみたくなった。コロラトゥーラの技法から自然にでてくるのだろうか、高音の柔らかい響きがとても快かった。彼女一人だけにスポットライトが当てられて無伴奏で歌ったアンコールの韓国の歌曲は実に素晴らしかったが、残念ながら「同心草」は出てこなかった。20分の休憩を挟んで二部はRimsky-Korsakovの交響組曲「シェラザード」とRavelの「ボレロ」であった。西本さんの指揮は身体の動きが優美でかつダイナミック、燕尾服の裾がひるがえると巣のひな鳥に餌を与えている親鳥のようであった。しかし身体の動きの大きな指揮を続けたせいなのか、終わったときは精根を使い果たしたようにも見えた。お疲れ様!

出かけるときはあいにくの大雨で歩くのに難渋し、そのうえ途中で軽く食事を摂ったりしたので会場に着いたのが7時開演の10分前であったので、そのまま2階正面の座席に直行した。一部が終わり休憩時間になってトイレに赴いたが、男性側とは対照的に女性側は3、40人の行列が出来ている。係員がこの2階のトイレは数が少ないのでお急ぎの方は1階のトイレをご利用下さいと声を張り上げている。私が用を済ませて出てきても妻は依然として同じところに並んでいるので男性側にエスコートしようかと声をかけたが、首を振ったのでそれではと1階のトイレに向かった。ところがこちらはまさに長蛇の列で、300人を超えているのではないだろうか。それも人目につくホワイエを延々と横切って並んでいるのだから私は度肝を抜かれてしまった。妻もこれには恐れをなして我慢すると言いだし、楽しみにしていたグラスワイン共々諦めたのである。20分間の休憩時間でこの行列が解消するとは私の目には映らなかった。

このような行列が出来るのは明らかにザ・シンフォニーホールの手落ちである。ホワイエでトイレ行列に並ぶ方はもちろん、それを目にする方も落ち着かない。トイレの設置場所と設置規模の両方に問題があると言えよう。規模について簡単な計算をしてみた。ザ・シンフォニーホールの座席数は1704であるが、1500詰まっていたとする。男女の比率を仮に1:2として女性の半数が休憩時間にトイレを使うとすると500人になる。トイレの利用時間(小用)は男性が30秒、女性がその3倍の90秒(これに近い調査結果がある)とすると女性の総利用時間は750分である。女性用のブースが幾つあるのか、ザ・シンフォニーホールに聞いてもすぐに返事が貰えるとは思えないので25箇所と仮定すると、750分を消化するのに30分かかることになるので、20分の休憩時間では短すぎることになる。ザ・シンフォニーホールが出来たのはほぼ30年前の1982年なので、その頃は女性の割合が今より低くてもしかするとブースの数も適正であったのかも知れない。そうだとすると社会のあらゆる面への女性進出がこの30年間にはるかに活発になったことがこの窮状を招いたと言えそうである。

ではこの問題を解決する術があるのだろうか。かってアメリカで女性の立ちションが歓迎された時代があったという。女性労働者の進出がなければ増産もままならなかった頃、というから戦時中がまたその直後か、従来の腰掛けトイレで費やす時間を少しでも短縮すべく、立ちション専用の便器が開発されたのである。所要時間が10秒ほど短縮されたというが、この程度では到底窮状を打破するには至らないので考慮の対象外である。また最近は保水能力に防臭効果の優れた紙おむつが開発されていると聞くが、これは最後の自衛手段として活用されることがあるとしても喧伝されるべきことではなかろう。となると一番現実的なのは観客が心置きなく用を足せるように休憩時間を十分長く取って、その旨を観客に周知させることである。そうと分かれば余裕のある人はまず飲み物・軽食でリフレッシュしてから用を足せばよいから早々と並ぶことはなく、トイレ行列はかなり解消されることは間違いなしだと思う。トイレ使用状況をシミュレートすれば、適切な対応策が自ずと出てくることだろう。

利休の教えを伝えているとされる『南方録』によると、「茶の湯せば、亭主に三つの馳走あり 酒・飯・雪隠 気をば付くべし」なのである。人をもてなすのに雪隠はそれほど大切な役割を果たすというのも、日本人の古来の美的感覚でもある。ところがザ・シンフォニーホールの雪隠すなわちトイレは、私の使った2階トイレは男子トイレと女子トイレの入り口が隣り合っていた。今や隣り合わせにならないように作るのが当たり前の筈なのにそれが出来ていない。さらに上に述べたようにトイレ行列がホワイエを長々と横切るようではこれまた失格である。ブース使用の順番を待つ待機場所を考慮した構造でないからそのようなことが起こるのであって、これではトイレが本来の機能を果たしているとは言えないのである。

話がコンサートそのものから大きく逸れてしまったが、それほど女子トイレ待ちの長蛇の行列が私には衝撃的だったのである。大阪中之島に現在建て替え中のフェスティバルホールのトイレ事情、ぜひ女性に配慮した造りであって欲しい。