日々是好日

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大学院制度抜本的改革私案 不要な院生をつくらないためにも

2007-10-16 14:02:54 | 学問・教育・研究
私の大学院制度抜本的改革私案の大きな狙いは二つ、将来社会の需要を上回る博士を作らないこと、それと企業の求めるマンパワー育成に「企業のただ乗り」をやめさせることである。

「企業のただ乗り」とはなにか、それをまず説明する。

修士の企業への就職は今や定着しているが、現行制度では学生一人一人が自分の意思で大学院修士課程に進むことを決め、授業料を払い、奨学金という借金を自ら背負い、またさらなる国費をも費やし、大卒より少しだけ箔をつけて企業に採用される。この2年間の教育経費はすべて学生個人の負担であるし、細かいことをいえば、大学院で過ごした年数は厚生年金などの算定にマイナス要因となり、その分、個人負担も増えるというものだ。学生側では『よりよい会社』に就職するための投資と割り切ってきたことだろうが、修士を採用する企業側にすれば修士の『付加価値』をただで手に入れたことになる。これが私の云う「企業のただ乗り」である。

その昔、大きな企業では自社の工員を独自の養成工制度で育成したものである。私の中学の同級生でもよく出来たのに経済的事情などから、地元の三菱や川崎などの養成工の途を選んだものが何人もいた。採用後、一人前の働き手となるべくその企業で教育訓練を行うのである。養成工上がりは現場でのエリートで、なかには労働組合の幹部になったものもいた。昔は養成工でよかったけれど、今や修士も戦力として企業が欲しいというのであれば、それを自前で育てるべきなのである。といっても企業に大学院を作らせるのではない。大卒を採用し、そのなかから企業が選別した社員を費用全額負担で大学院に送り込むのである。社員だから給料を貰うのは当然のこと、『勤勉手当』を増額して貰ってもいい。授業料を始めとする学費はすべて企業持ち、さらには社員を受け入れた研究室にそれ相応の研究費を寄付するのである。もちろん必要な税制処置を前提とする。

大学院の方でも企業から送り込まれた「社員院生」は原則として無試験で受け入れることにする。もちろん年齢性別関係なしである。受け入れに先立ち、「社員院生」一人一人の教育・訓練内容のプログラムを企業、本人、大学院の三者で相談して決める。そのプログラムに従って、「社員院生」が一つの研究室に留まるか、場合によっては1年ごともしくは半年ごとに研究室を移り歩くことになるのか、まったく自由にすればよい。教員によっては教えるだけで自分の手足に使えないのならかえって足手まといだから、と受け入れを拒否するのもまた自由である。とにかく企業が修士を戦力として本心から必要とするのなら、この私案が一番現実的であろう。これで国も大幅に国費を浮かせることになる。浮いた分は以下に述べる関連目的に転用するのであって、国が召し上げては困る。

これでお分かり頂けるように、私の「改革私案」では修士課程を企業戦士養成コースに模様替えをすることになる。企業に就職するのか、研究人生を選ぶのかを大学卒業の時点で学生は決断することになる。これを修士(企業)コースと名付けよう。このコースへの入学資格は企業からの派遣者に限定するのである。これでモラトリウム院生の発生する余地はなく、国費の節約になる。

大学院にはこの修士(企業)コースに加えて博士(学者)コースを設ける。大学人後継者の育成のためのもので、4年なり5年の一貫教育訓練システムで、このコース修了者には博士の学位を与える。定員はアカデミック・ポストを充たす程度にすればよいから、現在の定員から大幅に減ることになる。入試ではきめ細かい資質試験を行い、合格者には将来のアカデミック・ポストが保証されていることを自覚させるのである。国費を必要とする院生数が大幅に減るから、授業料を免除するのは当たり前として、生活費も支給すればよい。ちなみに防衛大学校では学生は国家公務員の身分で、学費は無料、給与は月額106,700円、年2回の期末手当が年額約380,000円支給されている(Wikipedia)。

私の「改革私案」で困る人が必ず出て来る。最近では「敬老の日」に歌舞伎役者と大学教授をくらべるとで取り上げたが、私がかねてから問題視している『実験をしない教授』『論文に名を連ねる資格のない教授』などである。いつからか精進を怠り、自ら実験が出来なくなった研究者が頼りにするのが院生であった。その院生が激減するかいなくなる。博士は制度的には皆就職であるからポスドク制度は必ずしも必要でなくなる。院生がいなくなると手足がもぎ取られることになるからと大恐慌を来すかも知れない。しかしちょっと待って欲しい。

私はこの抜本的改革には研究補助員、いわゆるテクニシャン制度の確立が不可欠だと考える。医師の医療行為に看護師・准看護師、臨床検査技師を始めとするいわゆる「コ・メディカルスタッフ」(和製英語)が必要不可欠であるのと同じく、研究者には器具洗いのような単純作業から、時代の最先端の技術を使いこなせる研究補助員が必要である。もちろん自分一人でやるのは自由であるが、支援スタッフに支えられて本当の研究大好き人間は心置きなく自分の研究を推し進めることができる。大学付属病院ではこのような「コ・メディカルスタッフ」を正規職員としているように、大学で研究補助員を正規職員とするのである。職員の定員増加はすんなりといかないだろうが、助教以上、研究費で研究補助員を雇用することから出発して、実績を重ねた研究補助員を正規職員と採用するなど、それなりの智恵を働かせばよいと思う。要はテクニシャン代わりの院生を、研究補助員で置き換えるわけである。

大学院制度の抜本的改革はきわめて重要な課題であるので、この提案はあくまでも素案に過ぎない。しかし企業が本当に優れた人材を必要とするのであれば、お金を出すかわりに口を出せるので、企業の意図に適った人材育成が可能になるはずである。大学院教育には口を出すより金を出せばと合わせて読んでいただければと思う。もし企業が博士レベルの人材を必要とするのであれば、「社員修士」を費用全額負担で博士(学者)コースに送り込める制度を補助的に作ればよい。