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日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

実験をしない教授に論文書きをまかせることが諸悪を生む

2006-09-25 14:13:13 | 学問・教育・研究
大阪大大学院生命機能研究科の研究公正委員会が今回の『阪大疑惑論文』問題の調査報告を9月22日に行った。その概要を各報道機関が報じているが、骨子は《杉野明雄・同科教授(62)が論文責任者を務める2論文の計八つの図で、データのねつ造・改ざんがあったと発表した。いずれも杉野教授が単独で操作して、共著者に無断で投稿していた。一部のねつ造・改ざんは認めたという。》(毎日新聞 9月24日)とのことである。

杉野教授を何らかの形で処分することで、大阪大学は幕引きを終えるであろう。おそらく大阪大学がこれ以上のことを明らかにすることはないだろう。大阪大学の隠蔽体質というのではなく、今の法的強制力を伴わない調査方法では、単独行為と認定された杉野教授が口を閉ざしてしまうとそこで終わりになるからだ。

私は以前に論文に名を連ねる資格のない教授とはと論じたが、実は杉野教授のようなお方は『想定外』であった。

上の報道を手がかりに、杉野教授が投稿に至った経緯を私になりに推理を進めてみる。

杉野教授は論文内容のすべてを創作したのではなさそうである。なにがしかの実験データが手元にあったからこそ、それを『改竄』できたのであろう。では杉野教授はその実験データをどのようにして入手したのだろう。まさか深夜人気のない研究室を歩き回り、机の上に置かれた教室員の実験ノートをメモしたわけではあるまい。となると、教室員がどのような形であるにせよ、実験データを杉野教授に提出したのであろう。

そう言えばどこかで、亡くなった助手が実験して杉野教授が論文を書いていた、との記事を見たような気がする(思い出せないのでソースの確認は出来ていない)。すなわち論文の著者と云っても、杉野教授は論文を書く人、その他は実験をする人と、分業になっていたもであろうか。在米期間が長かったと伝えられる杉野教授が、アメリカンスタイルをどうも持ち込んでいたらしい、と私は推測した。

アメリカンスタイルの典型的な例はこのようなものである。研究費を獲得した『ボス』がテクニシャン(実験助手、実験補助)を雇い、事細かく指示をあたえて実験をさせてそのデータをすべて取り上げる。テクニシャンは実験をするたんなる働きネズミに過ぎない。それに基づいて『ボス』は論文を書き、投稿する。テクニシャンの名前は普通は論文に載らない。頭脳労働の『ボス』はいわばローマ時代の貴族のようなもので、肉体労働のテクニシャンは奴隷のようなものと思えばよい。ポストドクを雇った場合は細部でこのケースとは異なるが、雇用主、被雇用者の関係は変わらない。

アメリカンスタイルはそれなりに評価できるところがある。ところがそれを日本に持ち込むと大変なことが起こる。私も過去いくつかの例を身近に見聞きしてきた。

今の制度ではどうだか知らないが、日本では研究費でアメリカのテクニシャンに相当する実験補助員を雇うことは出来なかった。もし雇えたとしても身分が不安定だから質の良い人は来ない。せいぜいアルバイター程度である。ではどうするか。教室員をテクニシャンとして使うのである。もし使われるのに甘んじたくない教室員がいたりすると軋轢が生じる。しかし生存を賭けた戦いでは十中八九教授が勝つ。そして自分の思い通りの研究システムを作り上げると、あとはオールマイティである。研究者の生命、論文発表を一手に押さえることで、教室員を思いのまま動かすことが出来る。これがさらに諸悪をまき散らすことになるのだが、ここでは立ち入らない。

このシステムで教授だけが得をするのなら、いずれは崩壊する。しかし、このシステムが順調に動き出すと『教室員』にも一定の恩恵が与えられるから、簡単には壊れない。自分の名前の載った論文がどんどん増えていく。それを業績としてよりよいポストを狙うことができる。だから『教室員』もいずれは解放される時を夢見つつ、ひたすら『ボス』の言いなりに甘んじる。ここに一種の『共犯関係』が成り立っているのである。

杉野教授が共著者に無断で投稿していた。これが事実だとすると、私の上の推測はまんざら的はずれではあるまい。『共著者』はこれまでもそれを当然としていたのではあるまいか。自分の実験データを教授に手渡したら、不備を指摘されないだろうか、と普通は気になって、「先生、あれでよろしかったですか?」と聞いたりするものである。論文の著者名の順番が気になっては、「もう論文、書き上げていただきましたか?」とか「どのジャーナルに投稿されますか?」など教授に打診するのではなかろうか。たいていの教授はそのように催促されるのが気になって、教室員から提出された論文草稿のチェックを急いだり、また催促されると、何もかもうっちゃってとにかく自分の責任を果たす。これが多くの研究室での光景であろう。自分の実験データの行方に全く無関心ではあり得まいし、あってはならないのである。杉野研究室の実体はどうであったのだろうか。

『単独犯行』と報じられた杉野教授を非難するのは、尻馬に乗ればいいだけのこと。しかしそこからは何も生まれてこない。この事件をも契機に、私は『若い人』に研究者としての新たなる自覚と奮起を促したいと思う。その思いを上のタイトル「実験をしない教授に論文書きをまかせることが諸悪を生む」に込めたのである。『まかせる』とは自己責任の放棄であるからだ。

ここにほんの表面的なものに過ぎないが、研究グループの『若い人』に向けての私の具体的な提言がある。目新しいことでもあれば、自分の出来ることから始めていただきたいと思う。

①たとえ教えられる身であっても、研究では対等であるとの気概をもちましょう。データの解釈、論理の構築、なんら先達に気後れすることはありません。

②もう実験できない教授でも、その過去に敬意を払いましょう。それはひるがえって現役である自分の誇りに繋がります。「先生、口では偉そうに言っているけれど、もうバッファーの作り方も忘れたでしょう」とか、軽口を叩ける関係が出来上がっておれば上々です。

③実験できない教授は仲間はずれにしてもよいから、研究グループ仲間の間でリーダーを作りましょう。尊敬できる人は身近にいるはずです。そしてお互い同士、何事でも話し合える信頼関係を築きましょう。

④実験できない教授に実験データを渡してはいけません。猫に小判、豚に真珠、見せるだけに止めます。変な創作欲から教授を守るためでもあります。

⑤研究グループでは必ず定期的に『検討会』を開きましょう。出来れば週に一度、最低でも月に一度は開かないといけない。その席には実験出来ない教授にも加わっていただきましょう。僻まれたら大変ですから。討論していると教授のおつむの程度がちゃんと見えてきます。「あほか」と思ったら、表情、仕草でその気持ちを遠慮なく表現しましょう。「さすが」と思ったら自分のもてる限りの国語能力を使って讃辞を呈しましょう。それで心が通い合います。そして出された素晴らしいアイディアをちゃんと研究に反映させましょう。

⑥そろそろ研究がまとまってきたら、リーダーが音頭をとって論文の草稿作りに入りましょう。リーダーを中心に、全体の構成をまとめます。図表を中心に分担をきめましょう。そして論文草稿を完成させます。

⑦著者名の順番はお互いが納得できるかたちに大体は納まるものです。『阿弥陀』も場合にはあるかも知れませんが、これは便法と割り切りましょう。そして教授の名前抜きで草稿を教授に提出します。人と猫は一日でも先に生まれた方が偉いとか、年長者の教授として礼を尽くされると嬉しいもので、研究費稼ぎも苦にならないことでしょう。「先生のお名前はご自分でお書き下さい」と申し添えればいいでしょう。時には書き加えるのを遠慮される場合もありますから。

⑧投稿に先立って儀式を行います。この論文を投稿することに同意します、との書類に著者全員が署名するのです。後日、版権譲渡の書類に責任者がサインする際の裏付けになります。そして郵送であれメールであれ、柏手を打って送り出しましょう。

⑨ちなみに、実験の出来ない教授も加わったコンパの席上でこのような歌を歌って気勢を上げたらどうでしょう。心からニコニコ笑ってくれる教授は大物で、信頼にあたいします。丹波篠山、デカンショ節の節でどうぞ。

♪教授、教授といばるな教授、ヨイヨイ
 教授 おいらの なれの果て
 ヨーイ ヨーイ デッカンショ

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