神戸元町風月堂の地下二階のホールで午後二時半からコンサートが始まる。少し早めに着いたので元町通りを少しくだり海文堂に入った。この書店は私が学生時代からよく立ち寄るところである。もう半世紀以上になろうか、神戸の目抜きにある書店で生き残っている唯一の書店であると思う。その間経営者が変わったと聞くが、営業方針などがそのまま引き継がれているせいであろうか、本の品揃えにも細かい心配りが感じられる。
海野弘著「海野弘 本を旅する」がカウンター横の台に山積みされている。掲示が出ていて著者のサイン会が午後二時(六月四日)からとある。もう時間だと思って横手を見るとテーブルの後ろに著者がお座りになっている。本屋を訪れるのは私の生き甲斐の一つのようなもの、だから海野弘という名前は記憶にあるが、彼の著書をいまだに買ったことはない。
本を手に取ってみた。第一部は「百冊の本の再訪」ということで、著者がかって出会い、影響を受けた本について語っているとのことである。そして百冊の本のカラー写真が四ページにわたって掲載されている。この写真を見て「さもありなん」と思った。どれ一冊も読んだことのない本なのである。それぐらい好みが離れている、だからこの著者の本を私は一冊も読んでいないのだ。
この本の見開きに著者の写真が一ページ大に出ている。まずこれが気に入った。帽子をかぶっているのだが、まさに私が当日もかぶっていた帽子にとてもよく似ている。それに私より五歳はお若いのだが、写真を拝見する限り私よりも五歳は年長に見える。それだけでなんだか嬉しくなった。
百冊の本を最初から少し挙げると、エウヘーニオ・ドールス「バロック論」、ウラジミル・ウエイドレ「芸術の運命」、ジャン・カスー「近代芸術の状況」・・・・と続き、ようやく七冊目に日本人が顔をだす。瀧口修造「近代芸術」である。このような本のどこが面白くてこの著者は読んだのだろう、と急に好奇心が湧いてきて、一冊でも面白い本に出会えば儲けものとこの本を求め、サインをしていただいた。挨拶を交わす、一期一会であった。
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