Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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アメリカ人の愛国心

2007-12-22 13:39:04 | シカゴ
前回掲載した、星条旗のスカーフをした老女ロザリーの写真に対するコメントのなかに、生活苦にありながらもアメリカ政府を支持しているのか?というものがあったのだが、これは日本人にはちょっとピンと来ない感覚かもな、と気づかされたので、少し言及したいと思う。

アメリカ人の多くは、「愛国心」というものを日常生活のなかですり込まれて育つ。小学生でさえ学校で「忠誠の誓い」を毎日唱えさせられるし、高校からプロに至るまで、どんなスポーツ競技でも試合前には必ず国旗に向かっての国歌斉唱がある。

僕は17年前にこの国に移り住んでからしばらく、こんなアメリカ人達の「愛国心」や「アメリカはナンバーワンの国だ」と信じきっている彼らのある種高慢な態度に強い嫌悪感を抱いていた。今でもそういう露骨な愛国心の表現には抵抗を覚えるけれど、こちらでの生活が長くなるにつれ、ひと口に愛国心といっても、そう疎んずるものばかりではないことがだんだんとわかるようになってきた。

ロザリーの星条旗スカーフはそのいい例だ。

ベビーシッター、看護婦手伝い、銀行受付、ホテル予約係、事務員。。。これまでいろいろな職についてきたが、人生一度も経済的に恵まれることのなかった彼女は、今年で66歳。最低の生活保護と、ボランティアで手伝っている食糧配給所から分けてもらう食べ物でぎりぎりの暮らしをしている。

イラク戦争に反対し、米国内での経済格差に大きな不満をもつロザリーは、アメリカ政府に対して大きな憤りを感じている。
「イラク戦争はおかしい、そんな金があるなら国内の貧困層を救済しろ、政府が歯止めをかけないから、家賃があがって貧民が生活できない。。。」
彼女に会うたびに、僕はそんな怒りに満ちた不満を延々と聞かされていた。

そんな彼女が、どうしてトレードマークのようにアメリカ国旗である星条旗のスカーフを身につけるのだろうか?

それは彼女がアメリカ政府ではなく、アメリカという国を愛しているからだ。彼女にとっては、国としてのアメリカと、アメリカ政府は別物なのである。

反戦デモや人権擁護の集会などを取材すると、必ずそこには星条旗を掲げた人々の姿があるが、それも同じこと。ロザリーをはじめとする多くのこんなアメリカ国民達にとって、「愛国心」とは「祖国」に対して持つものであり、それは「政府」に対するものではない。だから、時には政府が、彼らの愛国心に敵対する存在になることさえもあるわけだ。

貧しいロザリーが米政府の貧困対策に不満や憤りを持ちながらも、それでも星条旗のスカーフを被って愛国心を示しているのには、そんな背景がある。彼女は政府の政策は支持しないが、アメリカという国は心から愛しているのだ。いや、アメリカを愛しているからこそ、政府を批判せざるを得ない、といったほうがいいかもしれない。

こういう事情は、「愛国心」というものをあまり感じたり考えたりする機会の少ない日本人にとっては馴染みの薄いものかもしれない。それでも近年は石原都知事の君が代・日の丸強制や、安倍前総理の「美しい国、日本」などといった、政府主導の「愛国心」の押し付けというおかしな風潮はでてきているようだけれど。

本当に日本を大切に思っているのであれば、国際社会のなかでの役割を正しく認識して、偏狭な保守主義や国粋主義に惑わされることなく、日本への「愛国心」を持てるようになりたい。そのためには、うわべだけの偽りの愛国心を振りかざして、真の国益を損ねるような政府にははっきりと反対の意思表示をすることが大切だろう。

そういう意味では、ロザリーのようなアメリカ人達の「愛国心」には学ぶべき点が多いのではないだろうか。


(お知らせ)
12月20日発売の月刊 DaysJapanマガジンにソマリアの写真と記事が掲載されました。以下の書店で取り扱っています。
http://www.daysjapan.net/koudoku/index04.html

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25 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
運命かと (長谷川玲子)
2007-12-22 22:35:06
オリンピックやスポーツの世界大会では、自然と日本人を応援してしまう。私の愛国心はその程度です。日本に生まれたことを運命と思っています。ですから日本人として日本で生きて行きます。私には世界の中の日本の役割とか、政府とか、難しくて分かりません。正直興味もあまり無い。今住んでいる土地が好きだし、身近な私の手が届く範囲の困っている人達の役にたてれば、充分かなと思います。それが私のささやかな愛国心かもしれません。
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Unknown (Kuni Takahashi)
2007-12-22 23:11:15
オリンピックで日本人を応援するのは、単なる同胞、同郷意識であって、「愛国心」とはちょっと違うかなとは思います。身近に困っている人たちの役に立つ、ということにしても、その人が日本人だから助ける、というわけではありませんよね。ひとりの人間として困っている人間を助けたいと思っていられるのでしょうから、そこ「国」の概念が入ってくるわけではないと思います。しかし、これがスポーツではなくて戦争だったらどうでしょうか?日本が他国と交戦したときに、やみくもに日本を応援することが愛国心ではないでしょう。本当に日本を愛するならば、政府の暴挙を食い止めるために立ち上がることも大切だと思います。また、関東大震災直後に朝鮮人たちが迫害されましたが、そのようなときでも周りにながされずに日本国籍以外の隣人をも助けること、そういったことが真の国益につながる「愛国者」の行動だと思います。
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Unknown (ヒロヒデ)
2007-12-23 02:12:45
大和時代の仏教の布教のように、アメリカの愛国心を煽る行動は政府の政治の道具であると思っていました。

やはり日本から見ているとアメリカの愛国心はすべてのアメリカの行為を正当化する道具に使われているように見えて仕方ありません。

国という意識を地球という意識に広げることができるといいのに…と思います。(愛星心とでも言えばいいのかな?)
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原爆 (長谷川玲子)
2007-12-23 02:20:59
第二次世界大戦でも、日本人は中国や朝鮮の方達に酷いことをしたけれど、アメリカが落とした二度の原爆はもっと酷いと思います。しかも落とした当人は、全く悪いことをしたと思っていません。テレビのインタビューで見ました。そのアメリカに追従する政府や人達は理解できません。成熟しているというのかもしれませんが。戦後、日本人は愛国心をことさら避けてきたと思います。それは戦争に対する深い反省からでしょう。日本は二度と戦争しないと信じたい。困っている人が側にいれば、もちろんどの国の方でも手をかしたい。人類愛というのかな。本当に申し訳ないですが、現在の世界のことは私には分かりません。県の推薦図書に「17才のための世界と日本の見方」という本がありました。読んで勉強します。
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星条旗のスカーフから (mika in)
2007-12-23 02:21:43
アメリカ人の愛国心の“刷り込み”は、多民族国家であるアメリカならではの国家統一政策としてなくてはならなかったのかもしれません。そして、アメリカ人の愛国心がたとえ米政府のコントロール下に生まれ根付いたものだとしても、その愛国心こそが生きる支えとなっているアメリカ人も多いように思います。

ロザリーの頭を包む星条旗のスカーフは、アメリカ人として生きるロザリーの誇り、困窮の中にある希望の光、そして同時に米政府への抵抗を象徴する武装のようにも感じられました。

日常には、日常だからこそ気付かない、そこに“在る”理由や意味が隠れているのだとロザリーの星条旗のスカーフは気付かせてくれたように思います。そして、その日常の流れの中の一瞬を浮き彫りにし、そこにある意味を考えるきっかけを与えてくれる写真表現の面白さを改めて感じています。

貧困プロジェクトのauthenticな写真とご本人達のトーク、ここまで彼らが心を開いて被写体になり公で自らの貧困を告白してくれたのは、高橋さん自身の本当の思いが伝わったからなのでしょうね。

彼らがどのようなプロセスで、この貧困プロジェクトに協力するに至ったのか、高橋さんとどのような心の交流がそのプロセスの中にあったのかに大変興味があります。

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日本(人)の愛国心 (bluesnow)
2007-12-23 05:19:33
小国喜弘「戦後教育のなかの{国民}」(吉川弘文館」という本を読んでみてください。戦後教育が人々に植え付けた、ナショナリズムの閉塞性を問う、とあります。日本の学校教育は、「国民」創出のための、国民に「日本人」として全員同じ考えを持たせるためのものだったこと、そして「愛国心」を誇るべき文化的・民族的他者は、日本列島内部には存在しないかのように扱ったので、学校教育を通してお上が子供たちに強いたのは、伝えるべき具体的な「日本(人)」像をもたないきわめて空疎な「愛国心」だった、とのこと。そういう空疎で、内向きで、かつ非常に均一化された「愛国心」とアメリカのそれを比べると、アメリカ人が持っているのは、自分たちが国を作っていく、自分たちの国なんだ、という気概に裏打ちされた愛国心ですね。そんなプロセス思考の気概が日本人にありますか。
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読んでみます (長谷川玲子)
2007-12-23 06:52:42
bluesnowさん、ありがとうございます。読んでみます。アメリカの人達がそういう気概があるのは、やはり新しい国だからでしょうね。
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本の紹介 (長谷川玲子)
2007-12-23 07:41:13
私からもお奨めの本があります。池田晶子著「14歳の君へ~どう考えどう生きるか」毎日新聞社です。この方は今年二月46才で亡くなりました。哲学者で他の著書で将来、文部科学大臣になるつもりと書いていて、そうなったらいいなと願っていました。幾つかの項目に分かれています。「戦争」の所を特に読んで頂きたいと思います。
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新しい国 (bluesnow)
2007-12-23 08:28:17
長谷川さん、コメントありがとうございます。(このごろ、高橋さんはふっとんでますがー笑、ご自分の文章と写真が他の思考を刺激することについては、むしろ喜ばれているのでは、と勝手に解釈してます。。笑)正直言って、私は日本の人が、アメリカをただ「新しい国」「若い国」と単純に評することに関しては非常な抵抗を感じるようになりました。(笑 長谷川さんを個人的に対象とするコメントではないので、どうか誤解なきよう。。。アメリカで会う日本人の中でも、来たばかりの人は日米を比較して、歴史が短いから、-だからアホーみたいなことをおっしゃる人がいて、私は勝手にいらいらしてます。ただ、自分もその道を通りました。。笑)確かに日本の歴史と比べると、短いかも知れません。だから、新しいという形容詞は正しいかも知れません。しかし、アメリカは、その成立した時点から国際政治の覇権争いに巻き込まれており、その意味で、アメリカは最初から、国際社会の一員?といった美辞麗句を当然のものとして内包してる国かも知れません。アメリカ理解は、はっきり言って、私のような通常のような頭では理解できません。憲法解釈で成立している国で、弁護士が作る国です。短いかも知れないけれど、非常に複雑な国です。言い換えれば、常に変化し続ける国、変化することを恐れない国です。何か新しい事象がおこれば、必ず憲法と照らし合わせて、新しいものを作っていく。それは必ず、人間の理想に向かって動いていくもの、という共通理解が人々のあいだにあります。自分たちの日々の考え、行動が、国の将来、自分たちの未来につながっている、みたいな皮膚感覚があります。もちろん、その気概が他国に向けられるときが問題ですが。。何事もバランスをとるのがむずかしいですね。。
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Unknown (miura)
2007-12-23 09:51:42
おっ、また更新&コメントがたくさん。
私もアメリカに行ったときに、星条旗を身に着ける人がたくさんいるのにぎょっとしていたので、今回のご説明はうかがってよかったです。

一方で、ジョン・レノンのイマジンはアメリカでもヒットしたはずですから、ヒロヒデさんのおっしゃるような意見の人もアメリカにはいると思います。

*長谷川さん、前回のコメントありがとうございました。
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