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獅子頭手がける杉本卓治さん(御坊市)が独自の「天神さん」制作 〈2015年8月13日〉

2015年08月13日 08時30分00秒 | 記事

制作途中の「天神さん」と杉本さん
手前左が「天神さん」胴体の張り子


 23年前から祭りの獅子頭を作り続ける杉本卓治さん(48)=御坊市薗=が今年から、御坊・日高の地で古くから親しまれてきたが今は職人が絶えて制作されていない御坊人形の「天神さん」をもとに、独自の「天神さん」づくりに取り組んでいる。

「天神さん」とは、学問の神として親しまれる菅原道真公のこと。御坊・日高地方では以前、子どもの成長を祝う初節句に、道真公にあやかって「天神さん」のほか、俵持ちや鯛狆(たいちん)、三番叟(さんばそう)など、縁起の良い御坊人形が親戚から贈られたという。
 御坊人形は明治初期、御坊市東町で荒物などを扱う雑貨商・山本家が大阪から職人を招いて技法を学んだのに始まり、その親戚だった塩屋の田中家も加わって、4代にわたって受け継がれてきた。
 最盛期は明治中期から昭和10年代。戦後、昭和23から24年ごろも人気を集めた。昭和63年には、県知事指定郷土伝統工芸品に指定。しかし現在は職人の後継者が絶え、作り手が居なくなってしまっている。そんななか、御坊人形と同じ張り子の手法で長年獅子頭を作ってきた杉本さんに「作ってみないか」との声がかかった。
 杉本さんは今年に入って、田中家に伝わる御坊人形の「天神さん」を、大きさ、形、絵柄とあれこれ詳しく調べ、自分なりの「天神さん」づくりに着手した。
 まずは木型に和紙を張り重ね、形を作っていく。「和紙は明治、大正時代のものがいい。昭和のものはほとんどあかん。紙の漉き方が違う」と杉本さん。明治、大正の和紙は薄く粘りがあって破れにくく、縦横の紙目が明らかなので貼る方向を見極めやすい。書かれている墨文字に防虫効果があることも大きな利点という。
 そんな古い材料紙は獅子頭づくりにも使い、杉本さんの取り組みを知る周囲の人らが古文書などを提供してくれる。手元に集まった古文書は、薬の調合法から着付け、お花、国語事典と時代の資料となる貴重ないろいろ。今手がけている「天神さん」には、昔の御坊小学校の教科書を使っている。
 和紙を20枚ほど貼り重ねたら、木型から外して、上からパテを塗ってなめらかにし、色つけ。漆に似たカシューを2、3度塗り重ねて美しい色味を出す。
 顔部分は、紙を溶かし粘土状にした「練りもの」から形成。パテを数回塗りペーパーでこすって、顔の凹凸をつけていく。御坊人形の「天神さん」の顔は、体に対してかなり大きくふっくらとして愛らしい表情。それを参考に今、杉本さんは独自の顔を模索している。やや小振りの顔をいくつもつくり「それぞれに顔を描いて、実際に体に合わせながら決めていこうかと思っている」。
 他、御坊人形の「天神さん」が黒足袋を履いているのに対し、杉本さんの「天神さん」は「神さんは白足袋」と足先を白くし、緩やかだった袖のカーブも角度をシャープにした。座り方も、御坊人形がちょこんと両足をそろえているのに対して、足裏を合わせた姿勢にし、特大、大、中、小と4種あった御坊人形の大きさは、一般家庭に飾りやすい高さ30センチ、幅33センチの大きさに統一した。
 杉本さんは「遠回りも近回りもせな、ものづくりは分からん。やってみて初めて分かる」とあれこれ試行錯誤しながら、自分流の「天神さん」の完成を目指している。


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