論文集を手に上出さん
日高町高家在住の生態学者、上出貴士さん(51)が論文2編を発表した。1つは絶滅が危惧されているヒガシナメクジウオを54年ぶりに由良町沿岸で発見、これが、紀南生物同好会の会誌「紀南生物第65巻第1号」に掲載。もう1つは、県内河川中流域に暮らすイソヒヨドリは子育て時期にコガネムシを好む食性があることを確認し、野外鳥類論文集「Strix第39号」に掲載された。
上出さんは同町阿尾出身、北海道大学水産学部卒業、広島大学大学院生物圏科学研究科で博士(農学)の学位を取得。現在、水辺をテーマに幅広い生物の研究に取り組み、環境省が実施する干潟調査や鳥類繁殖にも調査員として参加、普段から身の回りの生き物の調査を続けている。
2022年6月に由良町衣奈と黒島の間の海域で6個体のヒガシナメクジウオを採集。県下では、有田市沖、由良湾、御坊市沖、田辺湾で1960~1970年代に記録があり、2003年には和歌浦湾で上出さんが採集し、由良沿岸では、1968年の記録を最後に同種の記録はなかった。
生息密度は1平方メートルあたり267個体と推測され、国内では高い水準。ナメクジウオ類は脊椎動物と共通の先祖から進化されたとされる頭索動物で、ヒガシナメクジウオは個体数が減少しており、WWFは稀少/危険、水産庁は危急種、日本ベントス学会は準絶滅危惧種、環境省は絶滅危惧種Ⅱ類に指定している。環境指標種であるヒガシナメクジウオの分布によって、衣奈沖は清浄な砂底海岸と考えられるとしている。
自宅近くの水田地帯を流れる西川沿いで3年にわたって、イソヒヨドリの食性も調査。イソヒヨドリは主に海岸に生息しているが、近年、内陸部にも生態場所を広げている。県内でも沿岸部だけでなく、市街地や内陸部にも見られ、日高町にも広く分布。特に春に採餌行動がよく見られ、餌生物は持ち去られることが多かった。全部で22通りの採食行動が見られ、コガネムシを捕まえるのが全体の32%を占めた。イソヒヨドリは昆虫やトカゲ類、果実など多様な生物を食べることが知られているが、コガネムシの捕食報告は初めて。
これは、これまでの調査が海岸や内陸の都市部で行われてきたためであり、今回のような調査が行われていなかったためで、春は子育ての時期であり、イソヒヨドリが河川中流域の堤防でコガネムシを捕まえて子育てしていることがわかった。コンクリートで舗装されていない河川堤防には、様々な植物が生息し、多くの動物が暮らしていることを示す一例で身近な生態系の豊かさを示したものだという。
上出さんは「身の回りの生物には、まだまだ分からないことが多くある。それらを調査していくことで、生物の多様性につながっていくと思う。身近な生物のことを知っていそうで知らないことを深める面白さがあり、今度も調査を続けていきたい」と話した。
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