聖徳太子研究の最前線

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三経義疏の類似や和習、読み取れる筆者の性格などに関するわかりやすい解説動画公開:石井公成「聖徳太子と日本語学」

2023年11月24日 | 論文・研究書紹介

 日本語学会会長の近藤泰弘さんは、最初期の文系パソコン・ユーザーの代表の一人です。その近藤さんの業績のうち、このブログと関係するのは、コンピュータによる自然言語処理の第一人者であった長尾真先生が創唱した N-gram活用法を日本語学・日本文学研究に適用して成果をあげ、私が三経義疏研究に使っているNGSMシステムの元となる技法を開発したことですね(こちらや、こちら)。

 その近藤さんに聖徳太子関連での講演を頼まれ、10月にリモートで「聖徳太子と日本語学」というわかりやすい講演をしました。内容は、これまで論文に書いたり、講演で話したり、このブログで紹介してきたことがほとんどであって、三経義疏の類似や和風漢文の特徴などについて、気楽な調子でわかりやすく解説しています。

 ただ、江戸の偽作の『大成経』では、聖徳太子が1万3000の漢字の訓を定め、『論語』の題名である「論語」の部分の左側に「呂無五」と記して韓音を示し、右側に「あげつらひかたることば」といった訓点をつけるといった形で漢文訓読を始めた、と説かれていることを報告するなど、これまで書いていないことも多少含まれています。

 その講演動画は、10月28日・29日の日本語学会大会の少し前から会員限定で公開されていましたが、大会が終了したため、一昨日から学会のサイトで一般にも公開されるようになりました(こちら)。

 私は、聖徳太子絵解きフォーラムの「特別口演」では張り扇を持参して、講談・浪曲・落語調を交えて話したことが示すように(こちら)、芸能好きのお調子者であることを見抜いていたのか、恩師の平川彰先生から「石井君、テレビには出ない方がいいぞ」と釘をさされていたため、これまで数多くあったテレビ出演はすべて断り、資料・情報の提供だけに留めてきました。

 カルチャーセンターでの講義の動画などについても、ネットでの一般公開は断ってきたのですが、中国やフランスでやった講演や発表は、知らないうちに動画が流れていました。また、一昨年に佛教大学での「法然における戒と悪」講演は、引き受けた後になって動画公開の予定を知らされ、公開は断ったのですが、先方にもいろいろ事情があってあれこれやりとりした結果、論文(こちら)だけでなく、動画の公開も認めましたので、『歎異抄』の害などについて語った動画が公開されています。

 今後は、講演・講義の内容や話し方によっては公開を認めるようにするかもしれません。ただ、四天王寺で「「聖徳太子はいなかった」説の誕生と終焉」と題しておこなった講演では、コロナ流行が一時期おさまった時期であって、250人もの聴衆が来てくれたため嬉しくなってしまい、冒頭で「『週間文春』の仏教スクープ班といった感じでやります」と宣言し、暴露話を並べた爆笑講演をやりましたので、この類の講演の動画公開は無理ですね。ただ、その講演の概要はresearchmapにPDFをあげてあり、この説の登場の背景と消えていった状況を知るには便利です(こちら)。

 それにしても、学界では「いなかった」説は10年以上前からまったく相手にされなくなり、批判することすら稀になったのに、ネットでは、いまだに「聖徳太子は実はいなかった」などと最近の大発見のように説明する記事が時々あがってますが、不勉強もはなはだしいですね。

 今回の講演は、日本語学会の研究者向けですので、訓読や和習といった面に重点を置いていますが、専門知識が無い人にも分かるように三経義疏の類似や和習、そこから読み取れる聖徳太子の性格などについて、わかりやすく語っていますので、太子関連の文献研究の入門篇、またNGSMシステムによる用語・語法分析の解説としては役立つと思います。

 なお、藤枝晃先生の『勝鬘経義疏』遣隋使将来説に続いて、「憲法十七条」の和習に関する森博達先生の発見や以後の共同研究に語ったのですが、前の部分に引っ張られ、「森先生は~」という言うべきところを、何度か「藤枝先生は~」と言ってます。申し訳ありません……。事務局に頼んで、コメントのところに訂正を示してもらってあります。聞けば、文脈で分かると思いますが。

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