僕の前世はたぶんオランダ人。

おもしろきこともなき世をおもしろく

冷い夏、熱い夏(吉村昭)

2019年05月13日 | よむ

人はいづれ死ぬ。

新生児ですら生まれたその瞬間から

死へ向かって歩き出している。

我が身にも等しい弟の癌発症から

死に至るまでをリアルにつづったこの書は

あまりにリアルすぎて

途中でなんど本を閉じて図書館へ返そうとしたことか。

それは

人はいずれ死ぬ、今もなお死への道程を目隠しされたまま歩いているのだ

ということを

本を通じて知らしめられているからに違いない。

そして癌告知、

あるいは目前に迫った死

という形で初めてその目隠しが払われるのだ。

その恐怖に打ち勝つには

やはり死を忘れて性を謳歌することが一番ラクではあるのだが

この重たいページをめくり続けるためには

死を生の一部としてともに歩み

いつかその時を迎えるその日に向かって

心の準備を整える必要があるという

まるで吟遊詩人ビードルの物語のような

そんな精神力を試される一冊なのである。


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