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世界共同体憲章試案(連載第26回)

2020-01-19 | 〆世界共同体憲章試案

【第84条】

1.すべて人は、思想、良心及び信仰の自由に対する権利を有する。この権利は、信仰または信念を変更する自由及び単独でまたは他の者と共同して信仰または信念を実践する自由並びに特定の信仰または信念を強制されない自由を含む。

2.すべて人は、その手段または名義を問わず、表現の自由に対する権利を有する。この権利は、懲罰や干渉、脅迫を受けることなく自己の意見を表明し、あらゆる可能な手段により、広く世界に情報及び思想を求め、受け、及びこれを伝える自由、並びに集会及び結社の自由を含む。

3.本条の権利及び自由は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害し、または侵害する明白かつ現在的な危険が認められる場合において、十分な反論の機会が保障された公正な司法過程を経ることによってのみ、制限され得る。

[注釈]
 第一項は聖俗問わず、広い意味での思想信条の自由に関する包括的な規定、第二項は表現の自由とその制限に関する包括的な規定である。本条の自由の制限に際して司法過程を経ることを義務付ける第二項の規定により、行政的な検閲や行政許可制は禁じられることになる。

【第85条】

1.すべて人は、学術的及び芸術的活動の自由に対する権利を有する。この権利は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害する場合または学術的もしくは芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合にのみ制限され得る。

2.すべて人は、自由に芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する。学術的研究及び芸術的作品は万民が享受すべき人類共有の資産及び遺産であり、何人も科学的研究、芸術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を独占することはできない。

[注釈]
 学術及び芸術活動の自由に関する規定である。第二項は、科学的研究や芸術的作品に対する知的財産権という壁を超克する革新的な規定である。もっとも、盗作・盗用を自由に認める趣旨ではなく、盗作・盗用は第一項の学術的または芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合の一つとして、何らかの制限が加えられることになろう。

〈補則〉

【第86条】

1.世界共同体域内で出生した者は、自動的に世界共同体籍が付与される。

2.前項以外の場合、世界共同体籍は、世界共同体の構成領域圏または直轄自治圏のいずれか一つの住民として登録されることにより、自動的に付与される。

3.世界共同体籍は、保持者の死亡が公的に証明されることによってのみ失効する。

[注釈]
 世界共同体は個人単位で参加する機構ではないが、域内で出生するか、域内の構成領域圏または直轄自治圏のいずれか一つで住民登録をすることにより自動的に付与され、かつ保持者本人の公的な死亡証明によってのみ失効する。反面、構成領域圏または直轄自治圏は現在の国籍に相当するような独自の所属籍を発行しない。

【第87条】

1.この憲章が保障する権利及び自由は、世界共同体域内のすべての個人及び法人並びにその他の集団による不断の協働的な努力によって保持しなければならず、それらが侵害されたときは、その回復のために可能な平和的方法で闘争しなければならない。

2.すべて人は、この憲章が保障する自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること、または世界共同体の目的及び原則を実現することをもっぱら趣旨として法によって定められた制限にのみ服する。

[注釈]
 第一項は憲章が保障する権利及び自由に対する協働的な保持と闘争の義務、第二項は憲章が保障する権利及び自由の制限に関する一般的な基準を定める。

【第88条】

1.この憲章が保障する権利及び自由は、基本的人権に含まれ得る最小限を示すものであるがゆえに、世界共同体域内のすべての民衆会議はそれらを削減してはならない。ただし、この憲章が保障していない権利及び自由を付加することを禁止するものではない。

2.この章のいかなる規定も、この章に掲げる権利及び自由の侵奪もしくは世界共同体の破壊を目的とする活動に従事し、またはそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。

[注釈]
 憲章が規定するたかだか全20か条の人権規定は基本的人権の最小限を示すのみであるから、世界共同体域内の領域圏等の民衆会議はこれを削減すること(例えば、社会権条項を排除するなど)は許されないが、反対に憲章の最小限規定を越えて独自に権利及び自由を追加することは許されるというのが第一項の趣旨である。
 第二項は念のための注意規定にすぎないが、この章が保障する権利及び自由がそれらの侵奪や世界共同体の破壊の目的のために悪用されることを禁止する趣旨である。


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