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農民の世界歴史(連載第42回)

2017-05-08 | 〆農民の世界歴史

第10章 アジア諸国の農地改革

(3)フィリピン農地改革と共産ゲリラ

 東南アジア諸国の中で、フィリピン農地改革は困難を極めてきた。フィリピンはスペインの侵略以前、部族長の統率の下、農地は共有制を採っていた。こうした原初共産的共有制はスペイン侵略後、アシエンダ農園制に置換された。
 その点では、同じくスペイン支配を受けたラテンアメリカと類似している。しかし、フィリピンは米西戦争の結果、アメリカの手に渡り、20世紀以降、アメリカ植民地となる。新たな植民地支配下で、アシエンダは近代的プランテーションに移行するが、その基本構造は不変であった。
 そうした中、日本軍占領下でフィリピン共産党が指導する農民革命運動フクバラハップ(フク団)が結成され、抗日運動としても活動する。これは中国共産党ゲリラ軍を範とする運動であり、フィリピンにおける共産ゲリラ活動の先駆けでもあった。
 独立後のフィリピンでは先のフク団がいっそう強勢化し、議会にも進出するが、冷戦期の親米反共政策を展開したマグサイサイ大統領は国防相時代にフク団を壊滅、共産党も勢力を失った。その代替として、マグサイサイ政権及び後のマカパガル政権は農地改革に着手するも、スペイン系地主層の抵抗で骨抜きにされた。
 ある程度本格的な農地改革の実行は1970年代、戒厳令を発動して独裁体制を築いたマルコス時代を待つ必要があった。マルコスは遅ればせながら、小作農解放令を発布し、自作農創設を目指す農地改革に打って出るも、地主の抵抗力は強権的な戒厳統治すら乗り越え、またも改革の軟弱化に成功する。
 ただ、マルコス時代は「緑の革命」を通じた農業技術革新によって、米の自給体制を確立するという成果も上げた。しかし、マルコス一族及び取り巻きが特権的寡頭化していく中、農地改革のそれ以上の進展はなかった。
 他方、共産党が毛沢東主義を掲げて再建され、軍事部門の新人民軍を通じて再び農村拠点の共産ゲリラ活動を開始し、独裁政権の先兵として増強された国軍との間で内戦的状況に陥っていった。
 新人民軍は民衆革命によるマルコス政権崩壊後、90年代に穏健派の懐柔離脱により孤立させられ、弱体化したものの、なお活動中である。一方で、新興華僑も加わった地主層は半封建的な地方政治家や財閥の形態を取って支配力を維持している。
 政府による農地改革は歴代政権をまたいでなおも継続中であるが、めざましい成果は上げられないまま、旧来の地主‐小作関係は温存され、農村の構造的貧困が長期課題となっている。また一度は達成した米自給体制も限界を露呈、輸入国に回帰するなど生産体制にも課題がある。


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