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「逆走」確立のファンファーレ

2019-05-01 | 時評

元号制度を墨守する日本では、好むと好まざるとにかかわらず、歴史的時間は元号と西暦の二つのモードにより二重に区切られることになる。そこで、今般の改元は、元号モードでの新時代のスタートとなる。問題はどのような時代のスタートかである。

複数案から選択された「令和」については、一部で「違和感」も表明されているが、その焦点は「令」の字にあるようである。これが命令的な意味合いを持つため、「令和」は「和を令する」といった権威主義的な意味合いを帯びるという「違和感」である。

ただ、典拠とされた万葉集の該当箇所「初春の令月にして、気淑く風和らぐ」で使われた「令」は命令の意ではなく、「めでたい」を意味する特殊な用法であるし、「和」も「和をもって尊しとなす」の「和」ではなく、そよ風の形容である。典拠どおりに読めば、「めでたく、やわらか」といった趣意となる。

これなら権威主義とは無縁のようだが、天皇の治世と結合された元号は文学的な表現ではなく、そこに何らかの政治的な含意が込められた一種の暗号であるからして、典拠から採取した二文字を選択的に組み合わせることにより、典拠の原意からは離れていくものである。

そういう目で「令和」を読み解くなら、今般改元ではこれまで漢籍に典拠を求めてきた慣例を初めて破り、国書に典拠を求めるという政権の国粋主義的な指向が強く働いたことに鑑み、他案を押して選択された「令和」は典拠の文学的な趣意を離れ、やはり「違和感」が表明するような権威主義的意味合いが暗示されていると読むこともあながち飛躍ではないだろう。

一方で、二つ前の「昭和」の「和」が早くも復活したことからみて、ここには昭和時代―とりわけ明治憲法時代の昭和前期―をめでたき時代―そのような暗示で「令和」を読むこともできよう―として懐古する復古主義的な意図も感じ取れる。このことは、近代内閣史上最長となることがほぼ確実な安倍政権が集大成として目論む改憲とも点線でつながるように思える。

その点、与党自民党は昨年、新たにいわゆる「改憲4項目」を提示し、2020年からの実施を目論んでいるが、これは前文まで根底から書き換える実質的な憲法廃棄の企てをいったん取り下げ(取り消してはいない)、改憲派野党との合意も睨み合わせ、さしあたり4項目に絞り込む部分改憲の形を取ったものである。

まだ正式に国会全体の改憲発議案となっていないばかりか、連立第一党単独での私案にすぎないことから、4項目を逐一論評することは控えるが、自衛隊の憲法明記、非常事態措置、教育費扶助/私学助成の飴をちらつかせた教育の国家管理、道州制に道を開く地方集権制、参議院の与党支配に道を開く都道府県代表制に集約される改憲提案は、いずれも政府権力の増強に資する項目に照準を当てていることは明らかである。

このような部分改憲が、野党が断片化し、対抗力を喪失した巨大与党主導の体制で実現すれば、まさに和を令し、異を排する全体主義的な一党集中体制を確立することに寄与するだろう。そして、それを皮切りに、いずれは悲願の全面改憲へと進む道も開かれるだろう。

筆者はつとに、戦後日本の歩みを時代を逆にたどって戦前期に戻っていく「逆走の70年」として把握した戦後日本史論を公表しているが、「令和時代」は、そうした逆走路線の確立期となるのではと予測している。悲観的な予測だが、令和改元は逆走路線が確立される時代のファンファーレに聞こえる。


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