ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

共産法の体系(連載第41回)

2020-05-29 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(7)弾劾司法
  
弾劾司法は公務員や公務員に準ずる公職者の汚職、職権乱用等の職務上の犯則行為を審理する特別な司法分野である。これは基本的に裁判という制度によらない共産主義的司法体系にあって、唯一裁判の形式による例外司法である。
 弾劾司法に属する裁判機関としては、民衆会議の現職代議員及び民衆会議が直任する公務員の犯則行為を審理する民衆会議弾劾法廷のほか、公務員及び公務員に準じる公職者による職務上の人権侵害事案を審理する特殊な弾劾法廷としての特別人権法廷、民衆会議が直任しない公務員及び公務員に準じる公職者の汚職事案を審理する公務員等汚職弾劾審判所がある。
 このうち、民衆会議弾劾法廷と特別人権法廷は事案ごとに設置される非常置の裁判機関であるが、公務員等汚職弾劾審判所は常設裁判機関である。
 裁判機関といっても、刑罰制度は存在しないから、有責と認められた者に科せられる制裁の中心は罷免であり、情状に応じて公民権の有期もしくは無期の停止または永久剥奪という処分が併科される。公民権が停止・剥奪されると、およそあらゆる公職に就くことができなくなる。

 民衆会議弾劾法廷は、領域圏及び領域圏内の各圏域すべての民衆会議にそのつど設置される特別法廷である。その第一の対象は民衆会議代議員であるが、民衆会議が直任する公職者の中でも中立性確保のため身分保障が強く求められる各種の司法職が第二の対象範囲である。その他の民衆会議直任職がそれに続く。
 民衆会議弾劾法廷は裁判の形式を取るため、刑事裁判に準じた起訴の手続きによって開始される。そのために検事団が任命されるが、その前に民衆会議弾劾委員会が予備調査を行い、弾劾法廷を設置する必要性の有無を議決する。
 弾劾法廷が設置されると、任命された検事団は、必要があれば人身保護監から令状を得て各種の強制捜査を実施する権限を有するが、被疑者に対する長期間の身柄拘束を行なう権限は持たない。被疑者や証人聴取のための勾引が限度である。
 捜査を遂げた検事団が起訴を決定すると、判事団が任命される。判事団は、法律家及び2名の民衆会議代議員で構成され、起訴事実に関して審理し、判決する。検事団の立証行為に対抗し、被告人は反論反証する権利を保障されるが、判決に対して控訴することはできず、一審限りで終結する。
 民衆会議弾劾法廷の対象外の公務員等の汚職事案は、常設の公務員等汚職弾劾審判所で審理される。常設裁判機関であるため、審判所検事局は、予備調査を経ず、直接に被疑者を起訴できる。公務員等汚職弾劾審判所の審判は法律家たる判事と民衆会議代議員免許を有する2名の市民参審員で構成される。
 一方、特別人権法廷の対象となるのは、主として市民に対して強制権力を行使する立場にある公務員等である。法廷の設置は、公務員による人権侵害を訴える市民の請求を受け、人身保護監が決定する。
 非常置である点を除けば、審判の手続き的な流れは公務員等汚職弾劾審判に似るが、審理の結果、反社会性が強く、一般の犯則行為者に準じて矯正処遇を要すると判断された場合は、有責者を矯正保護委員会に送致する。


コメント    この記事についてブログを書く
« 近代革命の社会力学(連載第... | トップ | 共産法の体系(連載第42回) »

コメントを投稿