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英国労働党史(連載第2回)

2014-08-19 | 〆英国労働党史

第1章 労働運動の発達

1:労働運動の発祥
 英国労働党は、その名のとおり労働者の党であるから、そもそも労働者がまだ一個の階級として存在していなかった資本主義以前の時代には存在し得ない政党であった。従って、それは近代資本主義の政治的産物の一つである。近代資本主義の発祥地英国で、労働党が誕生し、やがて主要政党に成長するということもある意味では必然であった。
 しかし、労働党が泡沫的な抗議政党にとどまらず、大衆政党として定着した背景には、一世紀近い労働運動の蓄積がある。従って、労働党史を俯瞰するためには、前史としての労働運動史を振り返っておく必要がある。
 英国労働運動の歴史も古く、18世紀産業革命の時代に始まる。特に安い賃金で搾取された未熟練労働者が非公式に団結したことが労組の始まりとされる。当初は職場ごとの個別的な団結にとどまったゲリラ労組は19世紀に入ると各地に出現するが、当局は当然にも当初は弾圧方針で臨んだ。
 そうした労組抑圧の雰囲気の中で、労働運動が戦闘的な形で現れたのが機械打ちこわし運動(ラッダイト運動)であった。もっとも、これは労働者というより手工業職人(織物職人)による抗議運動の性格が強かったので、近代的な労働運動とは異質な面もあった。
 現在知られる限り、様々な職域の労働者が結集する近代的な労働運動の先駆は1818年にマンチェスターで結成された労働組合連合と言われる。しかし労働組合は禁止されていたため、「博愛協会」という偽装名を名乗る必要があった。
 1824年、政府はいったん労組を解禁したが、翌25年に再び政府は団結権を禁止した。そうした制約の中で、職域横断的な全国規模の労働運動の注目すべき先駆的な試みとして、性格の異なる二つのものがある。
 一つは、アイルランド出身の紡績工・労働運動家のジョン・ドハーティが1830年に結成した全国労働保護協会である。これは織物工場労働者を中心としながら、その他の職域の労働組合も糾合して急速に拡大し、最盛期には2万人近いメンバーを擁した。
 もう一つは、ウェールズ人のロバート・オーウェンが1834年に結成した全国労働組合大同盟である。オーウェンは本来労働運動家というよりも初期社会主義の思想家兼模範工場経営者であったから、この組織はその名称にもかかわらず、政治思想団体の性格が強かったが、労働運動がやがて政党化していく過程での先駆ではあった。
 この二つの運動は団結禁止法の存在に加え、有能なオーガナイザーを欠いたこともあり、いずれも短命に終わったが、19世紀前半期の労働運動の先駆として、遠く労働党の結党にも間接的にはつながっている。

2:チャーティスト運動
 労働党の結成は、純粋な労働運動のみならず、労働者の政治的な結集の結果である。そうした英国労働者の最初の政治的結集が見られたのは、1830年代から50年代にかけての社会変革運動チャーティスト運動の時であった。
 この運動は中産階級も参加した階層横断的な変革運動であったが、運動の中で労働者階級は主要な動力となった。議会制が早くから発達した英国とはいえ、当時の英国政治はなお貴族と地方名望家が主導し、労働者階級は政治から締め出されていた。そのため、かれらの中心要求は普通選挙制の実現に置かれた。
 この時、チャーティスト運動の労働者派指導者ウィリアム・ラヴェットらを中心に1836年にロンドンで結成されたロンドン労働者連盟は政党ではなかったが、労働者階級の政治運動体としては最も初期のものである。
 労働者階級の要求は、チャーティストの語源ともなった38年の「人民憲章」6か条に集約された。そこでは、男子普通選挙制を筆頭とする民主的な議会改革策が提起されていた。この憲章は100万人を越える労働者の署名を得て議会に請願として提出されたが、議会はこれを却下した。
 この後、労働者たちは抗議デモやストライキで応じ、特に不況に襲われた42年に300万を越える署名をもって提出された第二次請願が再び議会に却下されると、大規模ストライキの波は頂点に達した。こうした労働者階級の政治的な急進化に対して、当局は弾圧で応じるが、48年の第三次請願が却下された後も、運動は50年代末まで持続していく。
 チャーティスト運動は革命運動の域に達するほど先鋭ではなく、内部は強硬な「実力派」と穏健な「道徳派」に分裂し、その中心的な要求事項であった男子普通選挙制が英国で実現するのは遠く1918年のことにすぎなかったが、労働者階級を政治的に覚醒させる歴史的な転機となったことは、たしかである。
 同時に、このような労働者階級の政治的な団結は支配層にも弾圧一辺倒政策の限界を認識させ、19世紀後半には特にリベラル派の自由党が労働者階級の利害を一定代弁する傾向が生じる。


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