ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

近代革命の社会力学(連載第176回)

2020-12-07 | 〆近代革命の社会力学

二十五 スペイン・アナーキスト革命

(4)革命統治の構造
 スペイン・アナーキスト革命の過程で設立された地方ごとの革命統治機関はその名称や権限などもまちまちではあったが、主要なものとして、カタルーニャ反ファシスト民兵団中央委員会、バレンシア人民執行委員会、アラゴン地方防衛評議会、マラガ公衆衛生委員会、アストゥリアス‐レオン最高評議会、マドリッド防衛評議会などがある。
 ただし、これらの地方革命諸機関は住民による直接参加型の組織ではなく、それらを実質的に動かしていたのはアナーキスト勢力の中核である全国労働者連合(CNT)及びその他の周辺労働団体であり、所により、CNTの連携組織であるイベリア・アナーキスト連盟(FAI)が参加することもあった。
 中央政府や正規の地方政府とこれらの地方革命諸機関の関係性は当初、二重権力関係にあったが、完全な対抗関係ではなく、並行関係にあって、穏健な人民戦線系政府を牽制するような複雑な関係にあった。
 ただし、カタルーニャでは、後述するように、アナーキスト系勢力の自治政府参加に伴い、如上の反ファシスト民兵団中央委員会は解散し、自治政府に統合されたが、自治政府の権力は名目的なもので、事実上はアナーキスト系勢力が実権を持った。
 また、スペイン革命は内戦と同時進行する革命であったことから、地方革命諸機関は、一面、民兵団の戦争指導機関でもあり、カタルーニャのように、まさしく民兵団の中央組織がある種の軍政機関として革命初期を主導したのは、そのことを象徴している。
 こうした地方革命機関の統治領域内の農村部には数多くの革命的自治体(コミューン)が成立した。このように農村部にまで及ぶ革命的コミューンの誕生はかつてのフランスのコミューン革命では見られなかった現象であり、アナーキズムにとってはいささか逆説的ではあるが、スペイン・アナーキスト勢力の組織力の高さを物語っている。
 また、こうしたコミューンでは警察・裁判所といった既存の権威的な法秩序維持装置も解体され、ボランティアによる巡視隊や近隣会議による紛争解決などの新しい民衆的な秩序維持制度に置換されていった。所によっては、刑務所の開放化のような実験的取り組みもなされた。
 しかし、人民戦線政府は、こうした地方革命に対して、1936年8月以降、国家の統一性を維持・回復するための社会主義的な諸措置を発令し、9月にカタルーニャのアナーキスト勢力が人民戦線系のカタルーニャ自治政府に参加したのを皮切りに、10月には労働者全国連合(CNT)が中央政府に参加し、いくつかの閣僚ポストを獲得することも許したのである。
 このような人民戦線系の中央及び地方政府との協力関係については、アナーキスト勢力内で論争の的となり、こうした協力関係を重視するグループと非協力を主唱するグループの対立関係を惹起することとなった。同時に、マルクス主義の影響が次第に強くなる中央の人民戦線政府とアナーキスト系の地方革命諸機関の間の軋轢も生じた。
 このようなスペイン革命における中央権力と地方権力の拮抗関係は、革命の遂行にとっては足枷となったであろう。しかし、本質的に中央政府機構に否定的なアナーキスト系の革命では、「中央」における独自の革命組織の形成が困難となることは必然であり、このこともアナーキスト系革命の成功確率を低める要因となる。


コメント    この記事についてブログを書く
« 選挙政治の終わりの始まり | トップ | 近代革命の社会力学(連載第... »

コメントを投稿