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近代革命の社会力学(連載第79回)

2020-03-09 | 〆近代革命の社会力学

十二 フィリピン独立未遂革命

(1)概観
 欧州での革命の波がいったん停止した19世紀末、ハワイ、フィリピン、キューバと、アジア‐太平洋、カリブ海域の三つの島嶼地域で大きな革命的事変があった。この三つは、当時、先鋭化していたスペインとアメリカの覇権抗争とも密接に連動した事象であった。
 このうち、ハワイ共和革命については前回まで見てきたところであるが、本章ではアジア‐太平洋という地政学上のくくりではハワイともつながるフィリピンの独立未遂革命について、取り上げる。
 古代以来、マレー系住民を中心とした多民族が集住してきたフィリピンでは、首長に率いられた部族国家が林立し、統一国家が樹立されることはなかったところ、16世紀前半、大航海時代を迎えたスペインに征服され、それから数世紀の間はスペイン支配下に置かれていた。
 転機が訪れたのが、19世紀末、スペイン帝国の衰退期である。この時代には、新興の帝国主義国アメリカがアジア‐太平洋地域への進出を狙い、当該地域のスペイン領に触手を伸ばしてきた。そうした構造変動の中で、フィリピン人の間に近代的な民族意識が芽生えたことで独立運動が興隆し、革命的な様相を呈した。
 このフィリピン独立革命は、まさにフィリピンをめぐるスペイン・アメリカの攻防と連動し、1896年と1898年の二次に分かれる。この二度の革命的蜂起はともに独立を目指した点では共通で、主導した革命家の顔ぶれにも一部重複がありながら、それぞれ主たる担い手の社会階層に相違があり、必ずしも連続した事変とは言えない。
 しかも、いずれの革命も、革命政権の樹立には漕ぎ着けながら、結局のところ、圧倒的な軍事力を擁するスペインまたはアメリカの帝国側によって短期間で鎮圧され、失敗に終わったという点では、「独立革命」ならぬ「独立未遂革命」と呼ぶべきものであった。
 最終的には、98年革命が挫折した後、フィリピンは半世紀近くにわたり、アメリカの植民地となり、言語・文化両面で急速なアメリカ化が進み、アメリカ的な民主主義思想も根を下ろした。そのような事情からも、フィリピン独立未遂革命の歴史的評価は、視座によって大きく分かれることがあり、評価を難しくしている。
 なお、冒頭述べたように、フィリピン独立未遂革命は同じくスペインからの独立を目指したキューバ独立運動とも並行・連動していたのであるが、その結果に関しては、フィリピンは失敗、キューバは形式的に成功するも、事実上アメリカの属国となるというように、分かれている。
 キューバ独立運動は「革命」より「戦争」の性格が強く、通常「革命」とは呼ばれていないが、形式的とはいえ、ひとまずは「独立」を達成した点で、革命的な要素が皆無ではなかったことから、本章最終節では、キューバ独立運動との対比も試みてみたい。


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