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ウイルス起源問題の政治化

2021-08-07 | 時評

5日、米諜報機関が新型コロナウイルスをめぐり、かねてより流出説が囁かれてきた中国・武漢のウイルス研究所が扱っていたウイルスのサンプルの遺伝子情報を含む膨大なデータを入手したとCNNが報じたことで、ウイルス起源問題が再燃し、かつ政治化される危険が高まってきた。

この動きは、バイデン米大統領が5月にウイルスの起源に関して90日以内に調査し、報告するよう諜報機関に対して命じていたことに対応するものとされるが、そもそもウイルスの起源という科学的な問題の調査を諜報機関に託すということが問題の政治化を意味していた。

諜報機関は、国益のために都合の良い情報工作をすることを活動目的としている機関である。アメリカは現時点でも、累計感染者数・死者数いずれも堂々の世界トップにあるから、諜報機関の工作によりウイルスの研究所流出説を打ち出すことができれば、アメリカは中国の最大の「被害国」だったということになり、中国に対して優位に立てると打算されているのだろう。

とりわけ、以前から陰謀説として取り沙汰されてきた生物兵器説を打ち出せれば、戦争に持ち込むことさえ可能になる。もっとも、ウイルス自体が人工的に製造された生物兵器だったとする説はいささか荒唐無稽であるが、生物兵器用に採取あるいは人工合成していたウイルスの取り扱い上のミスによって流出したとする説なら、ある程度の信憑性を持たせることが可能である。

そうなると、ちょうど2003年に当時のイラク政権が大量破壊兵器を秘密保持しているとの情報操作により戦争を発動したのと同様の仕掛けで、対中戦争を発動するか、少なくとも米中冷戦のような局面を作り出すことは可能になるだろう。

あるいは生物兵器説は無理筋としても、純粋の科学的研究目的ではあったが、やはり取り扱い上のミスにより流出したとする説であれば、より説得性を持たせることができる。この線で行った場合も、アメリカは中国の過失による最大の被害国であったことになるから、やはり中国に対して優位に立つことができるだろう。

いずれにせよ、こうしたバイデン政権によるウイルス起源問題の政治化の動きは、かつてCOVID-19を「中国ウイルス」と指称し、自国の無策・失策を中国に転訛する戦術を取ったトランプ前大統領を猛批判して当選したバイデン大統領が、実はトランプ政権の戦術をこっそり継承していることを示唆するものである。

これに対して、純粋に科学的な観点からのウイルス起源問題の探求は無価値ではない。とはいえ、目下のパンデミックを収束させるうえで、起源問題は役に立たない。将来のパンデミックの再発防止のためなら役立つという意義はあるが、そのためには中立的な多国籍構成の科学者団による徹底した科学調査を要し、中国側の全面協力も欠かせない。

現状それが望めないため、米諜報機関はおそらく何らかの超法規的手法を用いて研究所の内部資料・データ等を入手したのであろうが、それならば、結論を出す前に、取得した情報は世界の幅広い研究者にも開示するなどして、科学的な観点からの検証を経るべきだろう。90日というような形式的期限も無用である。

その解析結果いかんでは、目下のパンデミックの性格が一変する爆弾情報である。目下、パンデミックは自然現象という前提でとらえられているからである。研究所流出となれば、人為的な惨事だったことになり、一気に国際的な政治問題化し、戦争的な局面をさえ迎えることもあり得るだけに、慎重さが求められる。


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