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「女」の世界歴史(連載第47回)

2016-08-30 | 〆「女」の世界歴史

第Ⅲ部 伸張と抑圧の時代

〈序説〉
 近代的な女権の黎明期をくぐり抜けた先に女権の伸張期が現れるのは自然の成り行きであったが、その原動力となったのは20世紀を通じて世界に広がったフェミニズム思想とその主要な実践場となった女性参政権運動とであった。
 女性参政権運動は19世紀以降、英国からアジア方面にも拡散していく議会制度の整備とも一体的な動きであった。考えてみれば、古代ギリシャの直接民主制では女性の参政が排除されていたのが、民主制としてはより後退的な間接民主制に属する議会制度において初めて女性の参政が解禁されていったのは、簡単な投票を通じた間接的な政治参加にすぎないゆえという消極的事情もあった。
 反面、自らが議員その他の公職者に就くための被選挙権に関しては法律上保障されても、すぐに女性議員・公職者が増加するというわけにいかなかった。被選挙権の実質的な保障がある程度進んできたのは、せいぜい20世紀最後の四半世紀以降のことである。
 過去、40年ほどの間に、女性の社会的地位がなお相対的に低いアジアやアフリカ地域でも、女性議員・公職者は増加傾向にあり、女性の国家元首もしくは執権者も続々と誕生している。それによって、選挙政治の進展の中で、新たな歴史を作る主役となる女性たちも出てきている。
 こうした女性参政の拡大は、社会経済的な面での女権の伸長を後押ししてきた。この面でも男女間での賃金格差や昇進格差の問題はなお積み残されているが、資本企業組織における女性管理職・役員の増加は否定できない趨勢となっている。こうした資本の女性化と権力の女性化との新たな結びつきという事象も考察対象となろう。
 一方、女権の伸長にはほぼ一世紀の周回遅れで、同性愛者―広くは性的少数者―の権利にも進展が見られる。20世紀後半から同性愛者解放運動も強力に組織されるようになり、その一つの成果として、今世紀に入って同性婚の解禁に動く諸国も続いている。
 こうした権利の全般的な伸長に対しては、それに対する反動としての抑圧も見られる。反フェミニズムやホモフォビア(同性愛嫌悪)に向かう動きである。こうした動きの中心点は保守的なイスラーム運動に見られるが、非イスラーム圏でも超保守的な運動には共通して見られる傾向である。
 近代をくぐり抜けて、ポスト近代の新たな歴史を作りつつある現代を大まかに捉えれば、女権と男権のせめぎ合いの時代であり、伸張と抑圧が拮抗する新たな抗争の時代を迎えていると言えるかもしれない。
 その先にどのような未来があるかは、本連載の課題を超えた問いである。本連載最終の「第Ⅲ部 伸張と抑圧の時代」はそうした未来へ向けていまだ現在進行中の時代を扱うことから、唯一つの章のみで完結する。


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