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人類史概略(連載第10回)

2013-10-01 | 〆人類史之概略

第5章 国家の成立と隷民制

鉄器革命と国家
 商業=都市革命によって、とりわけ早くから啓けた西アジア・エジプト地域には多くの都市が誕生していった。これら都市はメソポタミアのシュメール諸都市のように都市ごとに王を擁する都市王国に発展したり、エジプトのように都市群を束ねる形で早くから統一国家が形成されたりと、経緯は様々ながらそれぞれ国家という新しい社会体制へ発展していった。
 しかし、物質的にもその持続性を担保された真の国家が成立するには、鉄器の発明という用具革命における新たな画期を経る必要があった。そうした鉄器革命の発祥地となったのはアナトリアに興ったヒッタイト王国であった。
 その担い手ヒッタイト人については不明な点が多いが、言語から見るとインド‐ヨーロッパ語族の古い分派と見られ、オリエントに広く展開するアフロ‐アジア語族系の集団に対して、脇から現れた新興の強力なライバル集団であった。
 ロシアの黒海周辺が原郷とされるヒッタイト人の最大の強みは当初は騎馬戦力であったが、やがて秘伝の製鉄技術を独占し、鉄製武器を開発したことで、エジプトに比肩し得る強国に成長した。おそらく世界史上最初の「帝国」と真に呼び得るのはこのヒッタイト帝国であったが、その物質的な基盤は鉄にあったのである。 
 ヒッタイト帝国は前14‐13世紀に全盛期を迎えた後、前12世紀に入ると国力が衰え、同世紀に地中海から侵入してきたギリシャ系を主体とすると見られる混成海賊集団「海の民」の襲撃破壊なども加わり、滅亡に至る。しかしこれ以降、ヒッタイト秘伝の製鉄技術はオリエント全域に普及していき、国家の物質的な基盤として広く活用されるようになる。

古代国家の発展
 こうして最初期の国家(古代国家)は鉄―とりわけ鉄製武器―を基盤として成立する。このことは、ここでもシュメール都市国家が先駆的に示していたように、国家の発展にとって軍事力がものを言う以後現代に至るまで続く人類社会前史最大の嚆矢でもあった。
 そうした古代国家の成立・発展もやはりオリエントが先駆的であったが、中でもヒッタイト滅亡後の西アジアにおける新たな覇権国家となったのはセム語派系のアッシリアであった。
 おおむね前2千年紀に始まるアッシリアの歴史はまず中継貿易のような商業を基盤とした都市国家として勃興し、やがて農業生産力にも支えられながら領域支配を拡大し、古代国家として発展していくプロセスを明瞭に示している。
 アッシリアは前10世紀のいわゆる「新アッシリア時代」に入ると、鉄製武器で武装した強大な地上軍を組織して征服活動を進め、前7世紀前半には当時衰微しつつあったエジプトをも支配下に収め、後にアケメネス朝ペルシャやローマ帝国が体現する「世界帝国」の不完全な原型となった。
 「世界帝国」としてのアッシリアの支配は属州制と駅伝制を組み合わせ、情報通信手段の乏しい時代に情報を基盤とした広域支配であった。情報は軍事とも商業とも密接に関連するが、国家がその領域支配を拡大し、異民族支配を打ち立てる上では不可欠の非物質的要素であり、こうした「情報統治」はアケメネス朝ペルシャやローマ帝国にも引き継がれる新しい統治技術であった。


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