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旧ソ連憲法評注(連載第12回)

2014-08-29 | 〆旧ソ連憲法評注

第四十三条

1 ソ連市民は、老齢、病気、労働能力の全部または一部の喪失および扶養者の死亡のときに、物質的保障をうける権利をもつ。

2 この権利は、労働者、職員およびコルホーズ員の社会保険、一時的労働不能手当、国家およびコルホーズの負担による退職年金、身体障碍年金および遺族年金の給付、労働能力を一部うしなった市民の就職あっせん、老齢の市民および身体障碍者にたいする配慮ならびに社会保障の他の形態によって、保障される。

 前三条の規定が労働‐休息‐健康という中核的な社会権に関する規定だったのに対し、本条からは派生的な社会権の規定が続く。中でも本条は、社会保障の権利を定める。内容的には、日本国憲法の生存権の規定とほぼ重なるが、第二項で権利を保障するための諸制度についてはより詳細に指示されている。ソ連は元来、こうした社会保障制度のパイオニアであり、これが資本主義諸国にも少なからぬ影響を及ぼしたのだった。

第四十四条

1 ソ連市民は、住宅の権利をもつ。

2 この権利は、国有および社会的所有の住宅の発展および保護、協同組合および個人による住宅建設の奨励、設備のよい住宅の建設プログラムの実行にともない供与される住居の社会的監督のもとでの公正な配分ならびに安い家賃および公共料金によって、保障される。ソ連市民は、自分に供与された住宅を大切にとりあつかわなければならない。

 住宅の権利も広くは社会保障の権利の一環であるが、本条はこれを特に取り出して個別に保障するもので、今日でも参照に値する規定である。ただ、第二項にあるように、私有住宅も認められており、純粋の社会権とは異なる面もある。また共産党幹部には特権的に豪華な別荘が供与されるなど、「公正な配分」とは言い難い住宅格差・住宅不足が存在した。

第四十五条

1 ソ連市民は、教育の権利をもつ。

2 この権利は、あらゆる種類の教育の無料、青少年にたいする普通中等義務教育の実施、生活および生産と授業とのつながりを基礎とする職業技術教育、中等専門教育および高等教育の広範な発達、通信教育および夜間教育の発達、生徒および学生にたいする国家からの奨学金および特典の供与、学校教科書の無料交付、学校における自国語による授業を受ける機会ならびに独学のための条件の整備によって、保障される。

 本条は、教育の権利の規定であるが、第二項では学校教育の完全無償化をはじめ、極めて詳細に権利保障のための諸制度が指示されている。特徴的なのは、通信教育や夜間教育などの補習教育や奨学金、さらには独学のための条件整備まで国の責務として言及されていることである。また民族間の平等原則に従い、自国語による授業を受ける権利も保障されている。

第四十六条

1 ソ連市民は、文化の成果を利用する権利をもつ。

2 この権利は、国およびその他の公共機関が所蔵する祖国および世界の文化財の一般公開、国の領域における文化、教育施設の発展およびその均等な配置、テレビジョン、ラジオ、出版事業、新聞、雑誌および無料図書館網の発展、ならびに諸外国との文化交流の拡大によって、保障される。

 教育の権利と並ぶ文化へのアクセス権の規定であり、これも先進的な規定であった。ただ、この権利を保障するための諸制度を指示する第二項にあるマス・マディアの発展を国が支援するという施策は、マス・メディアに対する国家統制につながるもので、報道の自由の抑圧とリンクしていた面は否定できない。

第四十七条

1 ソ連市民は、共産主義建設の目的にしたがい、学問、技術および芸術の創造の自由を保障される。この自由は、科学的研究、発明および合理化提案の活動の広範な展開ならびに文学および芸術の発達によって、保障される。国家はそのために必要な物質的条件を整備し、自発的な協会および創作家の同盟を支持し、国民経済およびその他の生活領域への発明および合理化提案の導入を組織する。

2 著作者、発明者および合理化提案者の権利は、国家の保護をうける。

 本条第一項は、ブルジョワ憲法では通常自由権として規定される学術、芸術の自由を社会権的な構成のもとに規定したもので、これも社会主義憲法の特質ではある。たしかにとりわけ高度な学術研究は国家的支援を必要とするから、社会権的側面は認められるが、一方で学術、芸術の自由は「共産主義建設の目的」に従う限りという制約を課せられたため、反共産主義的な学術、芸術活動は抑圧される結果となった。
 第二項は著作権や特許権を純粋個人の権利とせず、国家的保護を受ける社会的な権利として構成する特色ある規定であるが、明文はないものの、ここでも国家的保護を受ける著作や発明等は「共産主義建設の目的」に従うことが要求されたはずである。


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