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慰安婦問題「妥結」の禍根

2015-12-30 | 時評

長年、韓日関係の最難関だったはずの従軍慰安婦問題が急展開し、「不可逆的解決」の運びとなった。妙に唐突過ぎると思えば、果たして影には米国の介在があったようで、二国間問題としては異例の米国政府による「歓迎」コメントがすぐさま出た。

歴史問題でも米国頼みであることが示された。米国がどのように介在したのかという舞台裏はいずれ判明してくるだろうが、目障りな大使館前の慰安婦像を早くどかせたい日本が米国にすがりつき、韓国を説得してもらい、韓国も米国への義理から妥協した形か。

内容的には明確な賠償ではなく、「財団」という迂回的な方法をとるもので、まさしく政治決着である。法的責任はすべて50年前の日韓条約でチャラにしたというのがその根拠になっている。

しかし、当時はまだ壮年だった当事者女性たちが名乗りを上げられず、十分に解明されていなかった事象だけに、当時の条約で戦時賠償のすべてがチャラにされたと理解するのは不当で、慰安婦問題のように事後的に判明してきた戦時損害については改めて法的賠償をするという柔軟な解決策もあったはずだ。

ただし、個人補償に関しては、個々の被害者たちが受けた損害の内容やその真偽の証明が今となっては困難であることから、技術的に難しいかもしれない(もっとも、存命者数が限られていることからすれば、一律定額賠償とすることも不可能ではないが、一般に性的被害を金銭で最終解決することは、「事後的な買春」の結果を生じさせるという問題を惹起する)。

すでに当事者や支援団体から異論・抗議が出ているように、戦時性暴力のような機微問題を当事者不在のまま政治決着させることは、将来に禍根を残すだろう。

否、政治レベルでも両政府は心底満足しているわけではなく、「不可逆的解決」の保証すらない。特に大統領直選制の韓国では明確な政権交代があり、今般「妥結」に野党勢力は参加していない以上、政権交代後も踏襲されるという確かな保証はないのである。

この点、今般の「決着」の付け方は、朴槿恵大統領の父朴正煕が1965年に国交正常化の政治判断を優先して「決着」させ、まさに今回の慰安婦問題積み残しの禍根を残した韓日基本条約のケースと似ているが―両ケースとも国内の経済事情が関連していると見られる点でも類似する―、この時は正式の条約だったことや、79年まで朴正煕独裁体制が続いたことで片が付いたのだ。

他方、「慰安婦虚構論」や「慰安婦売春婦論」をコアな支持者に抱え、慰安婦を教科書から削除させることに心血を注ぎ、慰安婦を戦時性奴隷と認定し天皇及び日本国を「有罪」とした民間国際法廷を取り上げたNHK番組に横槍を入れた“実績”を持つ首相に率いられた自民党政権も、「責任痛感」を認めさせられた今回の「妥結」内容は、内心苦渋、不満なはずである。

今年4月に検定済みの来年4月以降の中学社会科教科書では、新検定基準に基づき慰安婦記述は大幅に削除されている。政権の意図としては今回の「妥結」をもって、慰安婦問題を完全に消去しようという深謀があるのかもしれない。

交渉過程ではもちろん、セレモニーとしても誰一人当事者女性が呼ばれることのなかった今般の「妥結」は、結局のところ、日韓双方にとっての共通同盟主・米国を船頭とする呉越同舟の船出であって、真の意味での終局的な和解とは言い難い。

[追記]
2017年1月、韓国民間団体が新たに釜山の日本総領事館前に慰安婦少女像を設置したことをめぐり、日本が事実上の大使召喚の対抗措置に出たことは、日韓「妥結」の正体をさらす出来事であった。少女像設置は韓国当事者側の強烈な不満を象徴するが、日本側の態度は慰安婦問題の抹消に執念を燃やすあまりのヒステリーと言うべきもので、圧力やバッシングを恐れて自国政府の態度を傲慢かつ醜悪と批判できない日本メディアの病理も深い。


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