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旧ソ連憲法評注(連載第20回)

2014-10-30 | 〆旧ソ連憲法評注

第四編 人民代議員ソヴィエトおよびその選挙手続き

 本編では、ソヴィエト連邦の国名の由来でもある中核的な制度ソヴィエトに関する通則がまとめられている。ソヴィエトはブルジョワ政治体制の議会制と似るが、単なる立法機関にとどまらない人民権力の基盤となる中核機関である。「評議会制」と訳されることも多いが、ここでは「会議制」と訳すことにしたい。

第十二章 人民代議員ソヴィエトの体系およびその活動原則

 本章は、連邦から町村に至るまで、各レベルごとに重層的に設置される人民代議員ソヴィエトの概要が示されている。

第八十九条

人民代議員ソヴィエト、すなわちソ連最高会議、連邦構成共和国最高会議、自治共和国最高会議、地方及び州の人民代議員ソヴィエト、自治州および自治管区の人民代議員ソヴィエト、ならびに地区、市、市内の街区、町および村の人民代議員ソヴィエトは、国家権力機関の統一的な体系を構成する

 ブルジョワ的な議会制のように、中央の国会と各レベルの地方議会が別立てとされるのではなく、会議制では、連邦から町村に至る各レベルのソヴィエトが体系的に構成される。

第九十条

1 ソ連最高会議、連邦構成共和国最高会議および自治共和国最高会議の任期は五年である。

2 地方人民代議員ソヴィエトの任期は二年半である。

3 人民代議員ソヴィエトの選挙は、当該ソヴィエトの任期満了の二か月以前に公示される。

 ソヴィエト代議員の任期に関する規定である。地方ソヴィエト代議員の任期は、連邦及び構成共和国の半分であった。

第九十一条

1 それぞれの人民代議員ソヴィエトの管轄に属する特に重要な問題は、その会期において審理され、解決される。

2 人民代議員ソヴィエトは、常任委員会を選出し、執行処分機関および自分にたいし報告義務をもつ他の機関を設ける

 第二項にあるように、ソヴィエトは執行処分機関その他の下部機関を設けることができる点で、単なる立法機関を超えていた。

第九十二条

1 人民代議員ソヴィエトは、国家的監督と企業、コルホーズ、施設および団体における勤労者による社会的監督を結合させる人民的監督機関を組織する。

2 人民的監督機関は、国家的な計画および課題の遂行を監督し、国家的規律の違反、地方割拠主義および業務にたいする役所的取組みの現象、ずさんな管理、むだづかい、仕事の渋滞ならびに官僚主義とたたかい、国家機構の仕事の改善を促進する。

 ソヴィエトの権限として特に重要なのは、この監督権(監察権)であった。これは人民主権原理の表れでもあり、ソヴィエトには言わばオンブズマンのような役割も期待されていた。第二項では人民的監督機関の仕事が非常に具体的に列挙されているが、ここに監察対象として掲げられているのは、巨大な官僚国家と化していた当時のソ連で起きていた弊害現象であった。それを憲法にわざわざ列挙しなければならないほど問題は深刻化していたものと考えられる。

第九十三条

人民代議員ソヴィエトは、直接にまたはその設置する機関をとおして、国家建設、経済建設および社会的、文化的建設のすべての部門を指導し、決定を採択し、その執行を保障し、決定の実施にたいする監督を行なう。

 本条は総指導監督機関としてのソヴィエトの権限を明示した規定であるが、実際上は共産党が指導政党の地位にあったため、ソヴィエトもまた共産党の指導下にあり、結果として、ソヴィエトは共産党の道具として象徴的な存在と化していた。

第九十四条

1 人民代議員ソヴィエトの活動は、問題の集団的、自由で実務的な討議および解決、公開、執行処分機関およびソヴィエトの設置する機関のソヴィエトおよび住民にたいする定期的報告ならびにソヴィエトの仕事への市民の広範な参加にもとづいて、行なわれる。

2 人民代議員ソヴィエトおよびその設置する機関は、その仕事および採択した決定についての情報を、体系的に住民にあたえる。

 ソヴィエトは市民の参加と報告というフィードバックを通じて住民との直接的なつながりも期待されていた点では、議会制より民主的な面もあったはずであるが、実際上は、共産党独裁により、こうした機能も形骸化していたと考えられる。


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