ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

戦後ファシズム史(連載第51回)

2016-08-03 | 〆戦後ファシズム史

第四部 現代型ファシズムの諸相 

4‐2:東欧の管理主義政権
 1980年代末から90年代初頭にかけて、社会主義体制が次々と民主革命によって崩壊していった後は、民主化運動勢力が政党化し、政権に就く例も増えた。中でも、一連の東欧革命の先駆けともなったハンガリーである。
 ハンガリーでは民主化運動を担ったのは青年層であり、そうした青年運動をベースに結党されたのが、フィデス‐ハンガリー市民同盟(以下、「フィデス」という)。フィデス(Fidesz)とはハンガリー語で「青年民主同盟」を意味する単語のアクロニムで、まさに党の沿革を示している。
 結党時から、短い中断をはさみほぼ一貫して党を率いるのは、オルバーン・ヴィクトルである。オルバーンは法律家兼社会学者にして英国で政治学も学んだ多様なバックグランドを持つ人物であるが、民主化後、早くから国会議員に転じ、98年の総選挙でフィデスを勝利に導き、首相に就任した時は35歳、当時欧州最年少の首相であった。
 フィデスは当初、旧独裁党が衣替えした社会党に対抗し、自由主義的な党として台頭したが、90年代半ばに右傾化路線に転換、第一次政権期中の2000年には、それまで属していた自由主義インターナショナルを離脱し、欧州議会における保守政党の会派である欧州人民党に所属替えし、保守党としての性格を鮮明にした。
 フィデスが内外で波紋を呼ぶほどに右傾化したのは、02年の下野後、再び政権に就いた2010年以後の第二次政権期である。首相は同じくオルバーンであるが、第二次政権では議会での絶対多数を背景に、宗教保守色濃厚で、市民的権利や憲法裁判所の権限を制約する集権的な憲法改正のほか、メディア統制法の制定などの権威主義傾向が内外の批判を浴びた。
 また折からの難民対策においても、難民の通過点とされることを防止するため、フェンスの設置や強権的な難民収容など、欧州でも最も強硬な対策を打ち出すなど、EUとの軋轢も増してきている。
 こうしたフィデス政権の性格の評価は必ずしも容易でないが、オルバーンは理想の国家として、西欧諸国より、当連載でも管理ファシズムの事例として取り上げたシンガポールやロシア、中国を挙げていることからすると、管理主義を志向していることは明らかであり、長期政権化した場合には管理ファシズムに進展する可能性も否定できない。

 同様の管理主義政権は、ポーランドにも出現している。ポーランドもまた東欧民主革命においては、ハンガリーとともに注目を集めたが、民主化運動の歴史はハンガリーよりも遡る。
 その中心にあった反体制労組「連帯」から派生した新勢力が「法と正義」(PiS:以下、「ピス」と略す)である。民主化プロセスが一段落した2001年、「連帯」の法律家でもあったヤロスワフとレフのカチンスキ双子兄弟によって創設されたピスは、当初から保守的な社会政策・家族政策を柱とする明確な右派政党として発足した。
 旧独裁党が衣替えした民主左翼連合政権が汚職問題で分裂した後、ピスは2005年の総選挙で第一党に躍進し、連立政権を樹立した。同年にレフが大統領に選出され、翌年にはヤロスワフが首相に就き、カチンスキ双子兄弟が政権を完全に制覇する結果となった。
 しかし、この第一次ピス政権は07年の総選挙では敗北、下野した。その後、10年にカチンスキ大統領が飛行機事故により不慮の死を遂げる不運にも見舞われたが、欧州への難民大量流入に直面する中で行なわれた15年の総選挙では難民受け入れ反対を公約して圧勝、再び政権与党となった。
 第二次ピス政権では首相に女性のベアタ・シドゥウォが就いたが、ピスの党首は03年以来レフ・カチンスキであり、シドゥウォ首相は傀儡に近く、実権がレフにあることは明らかである。大統領には総選挙に先立ってピスのアンジェイ・ドゥダが選出されており、再び政権をピスが独占する状態となっている。
 ハンガリーのフィデス政権とは異なり、現時点でピス政権は憲法改正に踏み切っていないが、憲法裁判所人事に介入、判事をピス寄りで固めて違憲訴訟を抑制するなど、権威主義的な政権運営が目立ち、「フィデス化」の懸念が内外で強まっている。フィデスともども、東欧における「ファッショ化要警戒現象」として注視される。

 ちなみに、ハンガリーにはヨッビク-より良いハンガリーのための運動(略称ヨッビク)を称する明白にファシズムの特徴を帯びた議会政党が存在するが、少数野党にとどまっている。同様に、ポーランドには家族同盟を称するファシスト政党が存在し、同党は06年から07年までピスと連立政権を形成したが、07年総選挙で議席を喪失した。


コメント    この記事についてブログを書く
« 戦後ファシズム史(連載第5... | トップ | 9条安全保障論(連載第7回) »

コメントを投稿