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近代革命の社会力学(連載第53回)

2019-12-23 | 〆近代革命の社会力学

七 第二次欧州連続革命:諸国民の春

(6)ドイツにおける革命

〈6‐1〉諸邦の革命
 1848年当時のドイツは連邦体とはいえ、旧神聖ローマ帝国を継承する形で、40近くに上る領邦の集まりであったため、「ドイツ革命」というような包括的な形で革命の余波が及ぶことはなかった。
 しかし、当時のドイツ諸邦はおしなべて旧態依然とした専制君主体制であり、良くてもせいぜい啓蒙専制君主による限定的な改革が行われるにとどまっていたため、革命の波をひとたび受ければ全ドイツに広がる可能性があった。
 諸邦で最初に革命の火ぶたが切られたのは、南西部の中小規模の領邦バーデンである。当時のバーデンはバーデン大公による実質的な君主制下にあったが、時の大公レオポルトは比較的リベラルで、他の諸邦に先駆けて上からの自由主義的改革に取り込んでいた。
 しかし、このような限定的改革がかえって革命を誘発する契機となり、1848年2月、マンハイムで最初の革命が勃発した。民衆会議(Volksversammlung)が設置され、自由主義的な権利章典の採択が要求された。さらに、3月1日には議事堂が革命派によって占拠された。
 革命は、諸邦中最大規模のプロイセンにも飛び火し、3月6日にベルリンで大規模なデモが発生、同月18日には国王への請願として自由主義的な改革が要求された。時の国王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世は保守的な専制君主であったが、足元での革命的動向に慌て、要求を受諾する勅令を発した。
 しかし、デモ隊と軍隊の偶発的な衝突から予想外の市街戦に発展し、多数の死者を出す結果となった。これで国王が反革命に傾くことも予想されたが、かえって国王は民衆鎮撫策に出て、5月には初の普通・間接選挙に基づく民選議会が招集されるに至った。
 一方、南部の有力邦バイエルンでは、いささか変則的な経過をたどった。バイエルンでは、国王ルートヴィヒ1世のアイルランド生まれの愛妾ローラ・モンテスが政治介入し、自由主義的な改革に着手しようとしていたが、これが保守派を憤激させ、抗議デモが発生した。
 それと同時に、より自由主義的な改革を要求する学生のデモも同時発生し、3月6日にミュンヘンで最初の蜂起が起きる。こうした保革の要求が入り乱れる中、同月20日、ルートヴィヒは息子のマクシミリアンに譲位し、引退することとなった。ドイツにおける諸邦の革命で君主が退位したのは、これが唯一であった。

〈6‐2〉フランクフルト国民議会
 上述のような諸邦レベルの革命と並行して、ドイツ統一に向けた革命の動きも生じてきた。バーデンのハイデルベルクでドイツ国民議会の設立準備が開始されたことを契機に、1848年3月から4月にかけて、当時どの領邦にも属しない独立自由都市の地位を持っていたフランクフルトで、準備議会が招集された。
 準備議会は、「ドイツ国民の基本権と要求」と題する憲法案を採択した。言わば、ドイツにおける人権宣言に相当する憲法文書である。さらに、普通選挙法も制定され、48年4月から5月にかけて間接選挙による国民議会選挙が実施された。こうして、フランクフルト国民議会が始動する。
 その議員構成は、「教授議会」と半ば揶揄されたように、各領邦から選出された大学教授や法律家など中産知識階級が占めていた。また、準備議会が穏健な立憲君主義者を中心としていた経緯から、君主制を予定し、オーストリアの皇族ヨハン大公を暫定的な摂政に招聘するなど、保守的な傾向が強かった。
 とはいえ、そうした保守性からフランクフルト議会は当初、各領邦君主らからも支持を集めていたが、オーストリアをも包摂する統一ドイツの性格如何、宗派対立、穏健派と民定憲法を求める急進派の対立などを止揚することができなかったうえ、デンマークとの境界上にあるシュレースヴィヒ・ホルシュタインの領有をめぐるデンマークとの紛争が惹起されたことで、議会は立ち往生することになる。
 最終的な打撃となったのは、フランクフルト議会が統一ドイツの君主に予定したプロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム4世が戴冠を拒否したことである。彼は王権神授説の信奉者であり、「神の恩寵による帝冠」を望むも、「ドブの中からの帝冠」、すなわち彼の見るところドブに等しい議会からの帝冠は受けないとの立場であった。
 こうして、フランクフルト国民議会による統一ドイツ創出の可能性はついえた。新憲法案も29領邦の承認を得たのみで、プロイセンやバイエルンなどの有力邦やオーストリアは承認せず、選出議員を引き上げてしまったため、議会は有名無実化し、急速に崩壊に向かうことになった。


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