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比較:影の警察国家(連載第68回)

2022-09-04 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐6:経済警察の諸相

 前回見た麻薬取締部と労働基準監督署も厚生労働省系の経済警察機関と言える側面を持つが、それら以外に農林水産庁や経済産業省にも国家の経済警察としての機能を持つ機関がいくつか存在する。それらはいずれも、各省の地方支分部局の内部機能という形で散在している。
 そのうち農林水産省系のものとして、その外局である水産庁の地方支分部局として各地に設置されている漁業調整事務所には、漁業関係法令を執行する漁業監督官が配置されている。漁業監督官は漁業関係法令に関しては司法警察職員としての職務権限が与えられ、主に密漁の取締りに当たる。
 海の警察である海上保安庁と任務が近接しているが、水産庁は漁業関連法令の執行と違反事案の立件に関しては優先権を持ち、専用の取締船を保有するため、言わば「漁業警察」としての機能を持つ。
 その点、2018年には水産庁長官を本部長とする漁業取締本部及びその地方支部が各漁業調整事務所に設置されて組織の一元化が図られ、「漁業警察」としての態勢が強化された。
 近年は日本が固守する捕鯨政策に反対し、捕鯨船に対する妨害活動などの直接行動を展開する海外の反捕鯨組織に対する水上での監視活動も水産庁の重要任務となっており、その限りでは本来の密漁取締り任務を超えて、国の漁業政策に敵対する組織を監視するある種の政治警察としての機能も備えてきている。
 同じく農林水産省系の経済警察として、外局の林野庁地方支分部局としての森林管理局がある。ここに属する森林官は森林関係法令の執行に関して司法警察職員としての職務権限が与えられているため、森林管理局には「森林警察」としての機能がある。
 一方、経済産業省系の経済警察機関として、同省地方支分部局である産業保安監督部がある。これは経済産業省所掌事務のうち火薬類の取締り、高圧ガスの保安、鉱山における保安その他の所掌に係る保安の確保に関することを分掌する総合的な保安機関である。
 その中心任務は警察というより監督であるが、その中にあって、鉱山における保安を担当する鉱務監督官は鉱山保安法違反事案に関しては司法警察職員としての職務権限が与えられているため、産業保安監督部は「鉱山警察」としての機能を持つ。とはいえ、その機能は、鉱山の中核であった炭鉱が1970年代以降、続々と閉鎖されていったことにより、縮小している。
 なお、国土交通省の地方支分部局である地方運輸局に属する船員労務官は労働基準法規定の大部分が適用されない船員の労働条件に関して労働基準監督官と同様の職務権限を持ち、違反事案については司法警察職員としての権限を行使できるため、言わば「海の労働警察」と言える。


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