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共産法の体系(連載第3回)

2020-01-09 | 〆共産法の体系[新訂版]

第1章 共産主義と法

(2)法の生産方法
 「法の生産方法」という問題はブルジョワ法理論ではほとんど意識されることがないが、共に産する法としての共産法では、法がどのように生産されるかは重要な関心事となる。
 その点、共産法に最もふさわしい生産方法は、代議機関を介さない「直接民主制」の制度である市民発議(イニシアティブ)と市民投票(レファレンダム)であると考えられるかもしれない。
 しかし、民衆会議が主導する共産主義社会は「直接民主制」ではなく、あくまでも「代議制」の範疇にある。すなわち立法の中心は代議員抽選制に基づく民衆会議であって―選挙でなく抽選による限りで、「半直接的」ではあるが―、民衆会議こそが言わば法の生産工場である。
 従って、市民による直接立法とも言うべきレファレンダムは代議制の原則を崩すおそれがあるので、基本的には否定される。ただし、全法体系を統括する憲法に相当する民衆会議憲章の制定・改廃に際してレファレンダムを行う可能性は否定されない。
 このように代議的な生産方法を基本とするとはいえ、社会の主役である民衆が法の生産過程の完全な外部に置かれるのでは、ブルジョワ議会法の制定過程と大差ないものとなってしまう。
 その点、一種の民衆会議体であるソヴィエト制を導入した旧ソヴィエト連邦において、ソヴィエト制度が形骸化していった結果、民衆が事実上立法過程から排除されていたことの轍を踏むべきでない。
 そこで、共産法の制定にあっては、各法の性質に応じて、市民のイニシアティブが保障されなければならない。ここで各法の性質とは法の適用域による区別に加え、その内容的な属性を指す。
 法の適用域とは、全世界の領域圏を包摂する世界共同体、その内部で複数の領域圏を大陸的に包摂する汎域圏、世界共同体の構成主体となる領域圏、領域圏内部の準領域圏(州)や地方圏、地域圏、市町村といった行政的な圏域に照応している。 
 その点、個々の領域圏を超えた民際法の性質を有する世界共同体の法(世界法)及び汎域圏法の場合、イニシアティブは事前に登録された公式民際団体―現在のNGOに相当する―によって主導されることが望ましい。民際法は専門性とともに普遍性を持つべき法だからである。
 個々の領域圏に限局適用される領域圏法についても、環境法や人権法のような専門的な法分野では市民団体のイニシアティブを認める余地はあるが、一般的な領域圏法の場合、原則的には拘束力を伴った請願権の活用によることが望ましい。
 一方、領域圏内部の各種自治体が独自に定める自治体法は当該自治体住民の生活行政に関わるので、住民の直接的なイニシアティブを導入するにふさわしい法である。ただし、その場合も代議制原則との兼ね合いを意識する必要はある。


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