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戦後ファシズム史(連載第49回)

2016-08-01 | 〆戦後ファシズム史

第四部 現代型ファシズムの諸相

4:ファッショ化要警戒現象
 これまで見てきた現代型ファシズムは、東欧の一部を除けばそのほとんどがアジア、アフリカ地域のものであった。ファシズム発祥地である欧州地域の「本家」ファシズムは第二次世界大戦で米欧自由主義陣営に敗北・滅亡したとされている。たしかに、西欧においては、体制としてのファシズムは現時点で見られない。ただ、21世紀に入って、反移民を掲げる排外主義的な諸政党の動きが活発化している。
 これらの反移民諸政党が特に標的とする移民は、ほとんど専らアフリカ・アジアからのイスラーム教徒移民である。これは冷戦終結後、キリスト教文明圏vsイスラーム文明圏の「文明の衝突」が世界の新たな対立軸となるかに見える情勢下で、テロリズムの脅威とも絡めて、反移民論が世論においても優勢となってきたことに対応している。
 同時に、労働市場で低賃金労働力として活用される移民労働者階級と先住国民労働者階級の競合が激しくなり、職を奪われる危機感から、先住国民労働者階級が伝統的な労働者階級政党より反移民諸政党に誘引されていることも、これら諸政党の「躍進」を支えている。
 現時点では、これら反移民諸政党は大雑把に「極右」と総称されているが、近年は超国家連合としての欧州連合(EU)に反発し、国家主権の回復とEU脱退を呼号する傾向も強めており、国粋主義傾向を帯び始めている。
 こうした反移民国粋諸政党の多くはいまだ野党にとどまっているが、一部は保守系大政党と連立する形で政権参加も果たし、その影響は近年西欧で相次ぐイスラーム国が煽動するテロリズムの脅威に反応する形で、確実に浸透しつつある。
 これに対し、親ソ連圏だった東欧諸国でも、西欧とはやや異なる態様ではあるが、東欧民主革命を主導した諸政党が変節する形で、移民管理や治安強化を旗印とする権威主義的な政党が台頭し、ハンガリーやポーランドでは政権与党に就くまでになっている(後述)。
 こうした反移民国粋諸政党の浸透状況を欧州全体で見渡すと、現時点では地域的な偏差が見られ、基本的にはフランスやオーストリア、ハンガリー、ポーランドといった元来保守的なカトリック系諸国で活発と言える。
 オーストリアでは沿革上も旧ナチス支持者らを中心に1950年代に結党されたオーストリア自由党が2000年から連立政権に参加し、周辺諸国の制裁を招く事態となった(後述)。
 またフランスでは比較的歴史が古い国民戦線の活動が活発化しており、2002年大統領選挙では創設者ジャン‐マリー・ル・ペンが第一回投票で次点につけ、決選投票に進む勢いを見せた。フランスで大規模テロが相次ぐ中、17年予定の大統領選でも現党首で創設者の娘マリーヌ・ル・ペンの立候補が確実視され、その得票率と当選可能性に注目が集まっている。 
 これに対し、プロテスタント系諸国では反移民国粋諸政党の動きは目立たなかったところ、デンマークで国民党が01年から10年にかけて、さらに15年以降、保守政権への閣外協力の形で欧州でも最も厳格な移民規制策の導入に関与している。スウェーデンでも民主党が10年総選挙で初の議席獲得を果たし、14年総選挙では第三党に躍進、またノルウェーでは進歩党が13年以来、連立政権に参加、オランダでは自由党が10年から12年まで連立政権に閣外協力している。
 ドイツでは反ナチス政策もあり、反移民国粋政党は国政進出が困難な状況にあるが、近年、非政党の形態で浸透しているのが「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(ペギーダ)を名乗る団体である。同団体は州議会レベルの右派政党に浸透して、影響力を拡大していると見られる。
 これら欧州の反移民国粋諸政党は、現時点では党名やイデオロギーも雑多で、まとまっておらず、東欧の一部を除けば、政権与党にも就いていないが、将来、政権与党化の流れが生じれば、議会制ファシズム型の現代的な管理ファシズムへ進展することも想定され、今後の動向を警戒的に注視する必要がある。
 その意味で、これらの現象はファシズムそのものではなく、「ファッショ化要警戒現象」として把握することが適切かと思われる。類似の「ファッショ化要警戒現象」は、欧州の枠を超え、一種の周辺現象として、トルコ、日本、さらに米国に至る親欧諸国でも観察されるので、これらの事例についても後述する。

[追記1]
2017年フランス大統領選挙で、ル・ペン候補は中道派の若手マクロン候補に次ぐ次点に終わり、決選投票でも大差で敗れ、政権獲得はならなかった。

[追記2]
ドイツでは、2017年総選挙で、上掲ペギータとも結びつきのある反移民政党・ドイツのための選択肢が第三党に躍進した。さらに、2018年スウェーデン総選挙でも上掲民主党が第三党としてさらに議席増を達成した。これらの政党が共通して志向する反移民の実態はほぼイコールイスラーム系移民の排斥を含意する反イスラーム主義である。かつての欧州ファシズムの旗印だった反ユダヤ主義の位置に反イスラーム主義が座ったとも言えるだろう。


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