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旧ソ連憲法評注(連載第4回)

2014-06-27 | 〆旧ソ連憲法評注

第二章 経済システム

 政治システムに関する第一章に続く本章は、ソ連共産党を頂点に置く政治構造の土台となる社会主義的な経済構造について定めている。その内容は大きく分けて、所有制度、個人財産・労働・消費、生産方式の三部から成り、ソ連型社会主義経済の全体構造が俯瞰されている。

第十条

1 ソ連の経済システムの基礎は、国有(全人民的)財産およびコルホーズ・協同組合の財産の形態をとる生産手段の社会主義的所有である。

2 労働組合その他の社会団体の、その規約の定める任務の実現に必要な財産も、社会主義的財産である。

3 国家は、社会主義的財産を保護し、その増大の条件をつくる。

4 いかなる者も、個人的利得その他の私欲のために社会主義的財産を利用する権利をもたない。

 本条は、社会主義経済の法的基礎となる社会主義的所有の諸原則を定めている。このように実質的な生産方式より法的な所有権規定が先行するのは、いささかブルジョワ憲法的な構成と言える。
 第一項及び第二項にあるように、社会主義的所有は、国家・協同組合・社会諸団体の各レベルで多元的に認められていたが、それら社会主義的財産の保護責任という形での管理権限は、第三項にあるように国家に与えられていた。
 第四項は、社会主義的財産の私的流用を禁止する条項であるが、このような条項があえて付加されているということは、党や企業幹部らによる社会主義的財産の横領事犯が跡を絶たなかったことを裏書きしている。

第十一条

1 国有財産は、全ソヴィエト人民の共同の資産であり、社会主義的所有の基本的形態である。

2 国家だけが、土地、地下資源、水資源および森林を所有する。国家は、工業、建設および農業における基本的生産手段、運輸手段、通信手段、銀行、国家の組織した商業企業、公益企業およびその他の企業の財産、都市の基本的住宅資産ならびに国家の任務の遂行のために必要なその他の財産を所有する。

 前条で総覧された社会主義的所有形態の中でも、最も主要な国家的所有の具体的な規定である。第二項第一文にあるように、土地をはじめとする広い意味での天然資源は、国家に専有されていた。さらに、第二文では、いわゆる基幹産業の国有化が規定されている。注目すべきは、国家は商業企業をも組織化するということである。こうして国家を総資本家の地位に置くことが(国家中心社会主義)、ソ連型社会主義体制であった。

第十二条

1 コルホーズその他の協同組合およびその統合体は、その定款の定める任務の実現に必要な生産手段その他の財産を所有する。

2 コルホーズは、その占有する土地の無料、無制限の利用を保証される。

3 国家は、コルホーズ・協同組合的所有の発展およびその国家的所有への接近を促進する。

4 コルホーズその他の土地利用者は、土地を効果的に利用し、それを大切にとりあつかい、その肥沃度をたかめる義務をおう。

 本条は、社会主義的所有の中で、国家的所有に次ぐ協同組合的所有について規定している。協同組合の中でも特に中心を成したコルホーズ(農協)は、第四項で課せられる土地の効果的利用等の義務と引き換えに、第二項で国が所有する土地(農地)の無償・無制限の利用権を保証されていた。
 第三項は、協同組合的所有の国家的所有への吸収を目指す規定であり、多元的所有といいながらも、国家的所有の優位性が前提にあったことの証左であり、ここにも国家中心社会主義の特質が滲み出ている。


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