ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

共産法の体系(連載第27回)

2020-04-23 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(4)財産権法①
 非貨幣経済社会を規律する共産主義的市民法において、財産権法は市民権法よりも比重を下げるが、無になるわけではない。財産権法の体系が大きく債権法と物権法とに分かれることも基本的に変わりないが、その内実は大きく異なる。
 中でも、債権法に属する契約法に関して、貨幣経済下では圧倒的に枢要な売買契約が貨幣経済を前提としない共産主義社会においては消失するため、その内実は一変することになる。
 売買契約の原型でもある交換契約は残存するが、それは金銭による売買に代わる物々交換の法的基礎を提供する。実際、共産主義社会では物々交換が復活するとともに、電子的システムを駆使した交換などその手段も多様化していくため、そうした多様な形態における物々交換取引の安全を保証するための規定が市民法に置かれることになる。
 一方、貸借型契約にあっては、有償の貸借契約である賃貸借契約が消失し、無償の使用貸借契約が基本型となる。使用貸借は多くの場合、慣習的な口約束の世界であるが、共産主義的財産権法においては口頭だけの使用貸借に法的効力は認められず、契約書面に基づく使用貸借に限って法的効力が付与される。
 また貨幣経済下では金銭の貸借関係のように同種同等の物を用立てて返還しなければならないために、しばしば破産など経済的悲劇の要因ともなってきた消費貸借契約という類型も廃される。
 以上に対して、物権法の分野では所有権の概念は維持されながらも、事実上の所持状態である占有権がより優先される。ただし、それは占有状態に所有権の存在が推定されるからではなく、占有そのものを固有の財産権として保障する趣意である。
 共産主義的所有権は、所有という絶対的な支配を内実とするものではなく、広義の占有権の中でも特にその掌握力が強いゆえに妨害排除を主張できる権利を指すにとどまるのである。従って、それは主として日常の衣食住に関わる物品について成立することになる。
 一方、貨幣経済下では金融手段として消費貸借契約と一体的に猛威を振るい、生活手段の喪失にもつながる抵当権・質権をはじめとする担保物権の制度も廃されるので、共産主義的財産権法における物権の種類は限られたものとなる。


コメント    この記事についてブログを書く
« 近代革命の社会力学(連載第... | トップ | 共産法の体系(連載第28回) »

コメントを投稿