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共産法の体系(連載第32回)

2020-05-08 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(4)矯正処遇の諸制度①
 共産主義的犯則法は刑罰制度を持たない代わりに、犯則行為者の矯正及び更生を促進するための処遇諸制度を用意する。それらはいくつかの観点から分類整理することができるが、まずは対象となるものが人か物かにより、対人的処遇と対物的処遇の区別がある。
 このうち対物的処遇は没収のみである。没収は不法に取得された物を取り上げることにより一定の訓戒を与えて更生を促す処遇であり、万引きのような単純窃盗や禁制品の所持に関しては没収のみで足りる。なお、罰金に相当するような金銭的な剥奪の処分は貨幣経済が廃される共産主義社会では存立し得ない。
 没収以外の各種処遇はすべて対人的処遇である。これを処遇が実施される場所の観点から分類すれば、矯正施設で実施される拘束的処遇と一般社会で実施される非拘束的処遇とに分けられる。そのふるいわけは矯正の必要性、すなわち反社会性向の進行度による。
 大部分の犯則行為者は反社会性向がさほど進んでいないため、非拘束的処遇に相当するであろう。非拘束的処遇の代表は保護観察であるが、保護観察下での社会奉仕労働もこれに加えることができる。
 また、精神疾患を抱えるが、反社会性向は進んでいない犯則行為者に治療を義務付けつつ、観察下に置く医療観察も例外的な非拘束的処遇として用意される。
 これに対して、矯正施設で集中的に矯正する必要のある一部の者が拘束的処遇の対象となる。これは現行の懲役刑の制度に外見上は類似するが、あくまでも「処遇」であって、「刑罰」ではないので、端的に「矯正処遇」と呼ばれる。
 このような矯正処遇にも、対象者の反社会性向や精神疾患ないしパーソナリティ障碍の有無などの特性に応じて、さらに細分類が存在するが、これについては次回稿を改めて論じる。
 ところで、通常の矯正処遇をもってしては矯正し得ない矯正不能者に対する究極の処分としての致死的処分の制度を持つべきかどうかであるが、「矯正不能」の科学的・医学的証明は不可能に近く、過誤のない公正な処分としてこのような制度を運用することは困難であるので、致死的処分の制度は除外される。
 ただし、極めて矯正困難な反社会性パーソナリティ障碍が認められる者に関しては、矯正処遇を打ち切り、社会防衛上終身間にわたり拘束する終身監置の制度が用意されるが、矯正処遇の技術を研究開発する矯正科学の発達につれ、これに該当する者はごく例外的となるだろう。
 
:ただし、ジェノサイドのような反人道犯罪を組織的に、かつ指導的または主導的に実行した者に対しては致死的処分が与えられるが、これは反人道犯罪の再発防止を徹底する趣旨から、民際的な世界法に基づいて行われる根絶処分である(第6章(1)の脚注参照)。


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