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弁証法の再生(連載第17回)

2024-07-22 | 〆弁証法の再生

Ⅵ 現代的弁証法の構築

(16)弁証法の適用条件
 弁証法を現代的な水準で再生するためには、弁証法の適切な適用条件を見定める必要がある。これは、形式論理が広汎な適用性を持つことと対照的である。弁証法は、打ち出の小槌のように形式的な思考道具ではなく、より実質的かつ目的的な思考法だからである。
 そうした弁証法の適用条件の第一は、本質的に対立する二項の間で成立するということである。弁証法は対立物の対立を止揚する思考であるからして、これは当然である。従って、例えば、日常的な思考において対立的にとらえられる「白」と「黒」は本質的に対立するものではなく、「黄」と「緑」と同様の色の種別にすぎないから、弁証法の適用条件を満たさない。
 さらに、弁証法の適用条件の第二は、対立する二項は互いに等質的なものではなくてはならないことである。例えば、市民社会内の個人的利益と公共的利益の対立関係などはその例である。この場合、個人と公共(社会)はそれだけ取り出せば等質的とは言えないが、利益性という性状を加えることで等質的な二項となる。
 弁証法の適用条件の第三は、対立する等質的な二者がともに量的に把握できない性質を持つことである。もし、対立二者がそれぞれ量的に把握できるならば、足して二で割る平均法や最大公約法のような算術的な対応によって対立を解消することができるので、あえて弁証法による必要はない。従って、弁証法では算術的に明快な解答を導出することができないという点で、ある種の不確実性を甘受しなければならない。
 上例で言えば、個人的利益と公共的利益とはともに量的ではなく、質的な要素である。そして、公共的利益はしばしば保守的である。これを目下の先鋭なテーマでさらに具体化すれば、同性婚の是非をめぐる議論がある。
 この問題に関して、既成の社会秩序の維持という公共的な利益を重視すれば、婚姻は異性間に限られることになるが、婚姻に伴う諸権利の獲得という個人的な利益を重視するなら、性別組み合わせを問わず同性婚も認めるべきことになる。
 ここで典型的に見られるように、公共的利益は伝統的社会秩序の維持という保守的契機を持つのに対し、個人的利益はそれを打破しようとする革新的契機を持つがゆえに、この対立関係はしばしば先鋭な社会的論争に発展する。
 このような対立関係を解決するには形式論理学では無理があり、弁証法の登場が待たれる。その点、異性婚絶対主義と同性婚自由主義の対立を止揚する方策として、対立する二項をそれぞれ限定否定する思考プロセスを通じて、結合関係を婚姻以外の方法で公に証明できる公証パートナーシップ制度のような新たな制度を創設するという方向性が考えられる。
 これは異性婚制度を維持する限りで同性婚自由主義は否定しつつも、同性パートナー関係にも婚姻に準じた法的地位を保障する限りでは同性婚に準じた新たな結合制度を創設し、異性婚絶対主義も否定するという構想である。結果、異性婚絶対主義も同性婚自由主義も共に限定否定されることになる。
 ちなみに、この弁証法的な公証パートナーシップ制度にあっては、パートナーは別姓を原則とするから、この制度を異性間にも適用可能とすれば、日本では現時点で依然として解決がつかない夫婦別姓婚問題にも解決がつく可能性があり、汎用性は高い。
 もちろん、婚姻法の大改正を通じて同性婚を解禁するという方策もあり、これは弁証法によることなく、同性婚自由主義の立場を全面的に打ち出す方向性である。今日では一部アジア諸国を含む少なからぬ諸国でこうした同性婚解禁の流れが見られるので、公証パートナーシップ制度はすでに無用の段階に来ているのかもしれない。
 しかし、保守的な価値観が根強い諸国では同性婚の解禁は容易でないことから、弁証法的な制度構想である公証パートナーシップ制度にもなお有用性はあると考えられるところであり、弁証法は単なる思弁的思考法を超えて政策論においても適用可能な実践性を持つ。
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