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近代科学の政治経済史(連載第61回)

2023-05-08 | 〆近代科学の政治経済史

十一 情報科学と情報資本・情報権力(続き)

国家の情報化と高度監視社会
 20世紀末以降における情報科学のビッグバンと表現してもよい急激的な発達は、国家の統治にも高度な情報化をもたらしている。それは国家統治のあらゆる分野に及んでいるが、中でも軍事と保安の分野で特に高度である。
 軍事に関しては、伝統的な戦術が高度に情報技術化され、無人攻撃機のように、爆撃を無人で実施するような戦術の革新現象が顕著に見られる。こうした無人兵器は広義の軍用ロボットであり、今後は軍用ロボットの作戦投入はいっそう拡大するだろう。
 それにとどまらず、ハッキング等の電子技術を通じた敵国のインフラストラクチャーの破壊・攪乱など電子工作自体を戦争の手段とするサイバー戦争、及びそれを専門とするサイバー軍という新たな戦争手段も登場してきた。
 こうした戦争の高度情報化は、かつての人海戦術的な陸戦のように大量の戦死者を出すことを避けて、目的や標的を限定した戦争を可能にしてはいるが、戦争の概念を拡大することにより、かえって国家に戦争の効率的な選択肢を与える結果となっている。
 また軍事と密接に関連する諜報活動に関しても、かつては生身の人間たるスパイを使った情報の盗取工作が主体であったところ、情報技術が高度化した今日では、ハッキングや偽情報の拡散等の電子工作活動が主体となりつつある。
 市民的自由を脅かす国家による情報科学のより集中的な活用は、保安分野で進行している。ここで言う保安は犯罪の抑止や摘発、テロリズム対策を含めた広い意味での治安政策であるが、こうした分野でも、電子技術を通じた個人のセンシティブ情報収集技術や行動追跡技術、さらには監視カメラ網の全般化と結びついた顔認識技術などが開発されてきている。
 こうした保安の高度情報化は、自由主義を標榜する諸国でも2010年代以降、急速に進行し、「自由」を形骸させているが、一方で、従来からの管理統制国家では、ネット検閲(選択的通信遮断)のような新たな統制手段が発達し、電子的な管理統制を強めている。
 軍事や保安面での高度情報化は、「国家からの自由」の古典的な概念を形骸化させ、体制の形態を問わず、高度監視社会という世界共通の潮流を作り出す要因となっている。
 他方で、国のサービスの受給や投票などを電子的に処理する電子政府化も進んでおり、国民に便益を与えている面もあるが、これらは国民の側の電子化への対応力とも相関するため、全面的な電子政府化は至難である。
 情報科学/技術は今後とも日進月歩の進化を続けるであろうが、国家がその成果をどこまで、どのように活用すべきかについての議論は後手に回っている。しかし、自由の形骸化を阻止するためには、そうした国家の情報倫理も問われる必要がある。

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