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「ロシア第三帝国」の儚い夢

2022-03-03 | 時評

ウクライナ国境に軍隊を並べていたロシアが侵攻に踏み切り、しかも首都まで落とす気配を見せていることにより、以前の記事で想定した三つの可能性のうち、「ウクライナの回収」を狙っていることがほぼ明らかとなった。

古典的な軍事侵略であるが、しかし、これはかつての欧米列強―現在はNATOの仮面を被っている―が実行し、日本も追随したような強国が領土を拡張するための侵略ではなく、むしろ、ソ連邦解体後におけるNATOの東方拡大という攻勢に対する追い込まれ侵略の性格が強い。

その点では、第一次大戦の敗北後、厳しい国際的封じ込めにさらされていたドイツが、ナチス政権下で劣勢挽回・反転攻勢のために断行した侵略行動に近い面がある。ドイツ第三帝国の構築を目指したヒトラーになぞらえれば、プーチンは「ロシア第三帝国」―ソ連邦を実質上「ロシア第二帝国」と見た場合―の構築を夢見ているのかもしれない。

しかし、それは簡単でない。まず軍事‐経済総力の相違点が大きい。ナチスドイツは短期間で経済復興を果たしつつ、世界有数の軍備を整えたうえで近隣諸国の侵略に乗り出したが、現ロシアの軍事‐経済総力は決して世界最強レベルとは言えない。

もっとも、軍事的には「腐っても鯛」でソ連時代の遺産はあるが、末期でも400万超に達した旧ソ連軍に対し、現ロシア軍は90万と見る影もない。軍事的な強度は必ずしも兵員数で決まるわけではないとはいえ、征服戦争においては数は大いにものを言う。

すでに、西側では、ウクライナ軍の想定以上の抵抗もあってロシアは短期決戦に失敗し、長期戦に持ち込むしかなくなっているとの分析も出ている。最終的には征服しても、外人傭兵まで動員したウクライナ側のゲリラ的抗戦が続けば、ロシア側にもかなりの犠牲が出ることは避け難い。

さらに、経済的には、アメリカの罠にはまった面もある。アメリカがロシアの侵攻確実性を吹聴してきたことに煽られ、釣り出されて早まった侵略行動に出たとも解釈できるからである。これにより、アメリカはかえってロシア経済に打撃となる最強度の経済制裁を科す権利を得たことになる。

そこは今やロシアの後ろ盾のようになった中国の助け舟で乗り切ることができたとしても、中国の援助にすがって体制を維持していくなら、ロシアは第三帝国どころか、事実上中国の保護国化することになる。

真意をぼかしつつ国境地帯での軍事的威嚇にとどめておいたほうが、ロシアにとってメリットは大きかったはずである。プーチンは西側では巧妙な政略家として畏れられつつ過大評価されてきたが、やはり彼の本分は政治家より官僚、中でも元鞘の諜報官が適職だったということになるかもしれない。

もっとも、西側が「武器」にしようとしている経済制裁で体制崩壊を導くことは至難である。そうした外からもたらされた国難はかえって国内的には結束を固め、権力基盤を強化することになりかねないことは、クウェートを侵略したイラクのサダム・フセイン体制がその後10年以上も延命された過去の事例からも明らかである。


[追記]
ウクライナの想定を超える反撃にあい、かなりの損失を被ったロシアは、東部の親ロシア勢力を支援し、東部地域を部分占領する方針に切り替えた模様である。「作戦第一段階の完了」と情宣しているが、実態は当初狙った「ウクライナの回収」を当面断念したことを示唆している。

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