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南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第20回)

2021-08-08 | 南アフリカ憲法照覧

国民議会の権限

第55条

1 立法権を行使するに当たり、国民議会は‐

(a)議会に上程されたいかなる法律をも審議し、可決し、修正し、または否決することができる。

(b)立法を開始し、または準備することができる。ただし、財政法案についてはこの限りでない。

2 国民議会は、以下のような目的を持つ仕組みを定めなければならない。

(a)国の領域のあらゆる行政機関が議会に責任を負うよう保証すること。

(b)次のものへの監督を維持すること。

 (ⅰ) 法律の適用を含む国の行政権の行使

 (ⅱ) あらゆる国家機関

 本条から第59条までは国民議会の権限や議員特権等に関する細則である。本条では、立法と監督という国民議会の二大権限の内容が簡潔にまとめられている。なお、財政法案に限っては、財政担当閣僚が発議する例外がある(第77条)。

国民議会に提出される証拠または情報

第56条

国民議会またはそのいかなる委員会も‐

(a)宣誓もしくは誓約に基づき証言し、または文書を提出するため、あらゆる人を召喚することができる。

(b)あらゆる個人または組織に対して議会への報告を求めることができる。

(c)国の法律もしくは規則及び命令の定めるところにより、あらゆる個人もしくは組織に対して、a号もしくはb号に定める召喚または要求に応じるよう強制することができる。

(d)利害関係を持つあらゆる個人もしくは組織から請願、説明または上申を受けることができる。

 本条は日本の国政調査権に相当する国民議会の権限を定めている。前条の権限、とりわけ監督権を行使するための補助的な権限である。

国民議会の内部的協議、議事及び手続き

第57条

1 国民議会は‐

(a)内部的な協議、議事及び手続きを決定し、統制することができる。

(b)代議的かつ参加的民主主義、説明責任、透明性及び公衆関与に適正な配慮をしつつ、その任務に関する規則及び命令を作成することできる。

2 国民議会の規則及び命令は以下のことを定めなければならない。

(a)委員会の設立、構成、権限、機能、手続き及び存続期間

(b)議会の少数政党が議会及び委員会の議事に民主主義にかなった方法でする参加

(c)議会に議席を持つ各党及びその党首が議会でその役割を有効に果たせるようにするための議席割合に応じた財政的及び事務的支援

(d)議会における最大野党党首の野党首班としての認知

 本条は国民議会の内部的諸事項を定める規則の内容を列挙している。いわゆる自律権の規定である。注目されるのは、大衆参加や少数政党の参加に関しても配慮が要求されていることである。これは現状、旧反アパルトヘイト運動体の与党アフリカ民族会議(ANC)の圧倒的な優位が揺らがない中で、一党独裁化を避けるためには鍵となる規定であろう。なお、最大野党党首を野党首班(the Leader of the Opposition)として公式に遇するのは、英国議会制度からの影響と思われる。

特権

第58条

1 閣僚、副大臣及び国民議会議員は‐

(a)議会及び委員会において、その規則及び命令に従い、言論の自由を有する。

(b)次のことを理由に、民事もしくは刑事の起訴、逮捕、投獄または損害賠償の責任を負わない。

 (ⅰ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し 
     た事柄

 (ⅱ) 議会もしくはそのあらゆる委員会において発言し、提示し、または上申し
     た事柄の結果として明らかにされた事柄

[第1項は2001年法律第34号第4条により修正]

2 その他の国民議会、閣僚及び議員の特権並びに免責事項は、国の法律によって定めることができる。

3 国民議会議員に支払われる報酬、手当及び給付は、国庫基金の直接負担である。

 本条は、国民議会議員や議会に出席する閣僚、副大臣らの特権に関する規定である。南アは大統領制のため、閣僚や副大臣は議員ではないが、議会に出席する限りで議員に準じた特権を有する。第1項b号ⅱで、言論の免責範囲が結果的な判明事項まで及ぶのは手厚い保障である。

国民議会への公衆のアクセス及び関与

【第59条】

1 国民議会は‐

(a)議会と委員会の立法及びその他の手続きへの公衆の関与を促進しなければならない。

(b)その任務を開かれた方法で行い、かつ議会及び委員会の議事を公開しなければならない。ただし、次の目的のために合理的な措置を取ることができる。

 (ⅰ) メディアの取材を含む公衆の議会及び委員会へのアクセスを規制するこ
     と。

 (ⅱ) 特定の人を捜索し、及び適切な場合は特定の人の入場を禁止し、または強  
     制退場させること。

2 国民議会は、開かれた民主社会において合理性及び正当性が認められない限り、メディアを含む公衆を委員会の議事から排除しない。

 本条は議会への公衆関与に関する先進的な規定である。議会は、要件がやや不明確ながら(特にメディアの取材等を規制するb号のⅰ)、一定の規制権限を保持しながらも、立法やその他の議会手続きへの公衆関与を義務付けられている。特に第2項で委員会議事も原則的に公開されるのは徹底している。

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南アフリカ憲法照覧[補訂版](連載第19回)

2021-08-08 | 南アフリカ憲法照覧

会期及び休会

第51条

1 選挙の後、国民議会の最初の会期は、選挙結果が公表されてから14日を越えない範囲で首席裁判官によって決定された期日及び時間に開かれなければならない。国民議会は、他の会期及び休会の時期及び期間を定めることができる。

[第1項は2001年法律第34号第1条により修正]

2 大統領は、特別の任務を行なうため、いつでも国民議会の臨時会を召集することができる。

3 国民議会は、公益、治安及び便宜を理由としてのみ、かつ議会の規則及び命令で定められている限り、議会の所在地以外の場所で開くことが許される。

議長及び副議長

【第52条】

1 選挙後の最初の会期で、または必要に応じて空席を補充するため、国民議会はその議員の中から各1名の議長及び副議長を選挙しなければならない。

2 首席裁判官は議長の選挙を主宰し、または他の裁判官にそれを指示しなければならない。議長は副議長の選挙を主宰する。

[第2項は2001年法律第34号第2条により修正]

3 附則第3条A部に掲げられた手続きは、議長及び副議長の選挙に適用される。

4 国民議会は、決議により議長及び副議長を解任することができる。その決議が採択されるには、総議員の過半数の出席を要する。

5 その規則及び命令の定めるところにより、国民議会はその議員の中から議長及び副議長を補佐する他の役員を選挙することができる。

議決

【第53条】

1 この憲法が別に定めている場合を除き‐

(a)法案または修正法案に投票される際には、国民議会の議員の過半数が出席しなければならない。

(b)議会におけるその他の議案に投票される際には、少なくとも議員の3分の1が出席しなければならない。

(c)議会におけるすべての議案は、多数決による。

2 議会の会議を主宰している国民議会議員は、投票権を持たない。ただし‐

(a)議案に対する可否が同数の場合は、決裁票を投じなければならない。

(b)議案が議員の3分の2以上の賛成票によって議決されなければならない場合は、投票しなければならない。

国民議会における一定の閣僚及び副大臣の権利

【第五四条】

大統領及び国民議会議員でないいかなる閣僚または副大臣も、議会の規則及び命令に従い、国民議会に出席し、発言することができる。ただし、投票することはできない。

[本条は2001年法律第34号第3条により修正]

 第51条から第54条までは、国民議会の会期や議長以下の役員の選挙、議決方法や大統領・閣僚の出席権等の細目が簡潔に定められている。選挙後最初の会期の決定や議長選挙の主宰を憲法裁判所長官でもある首席裁判官に委ねる点が特色である。

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