ザ・コミュニスト

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ターリバーンの本質認識

2021-08-18 | 時評

アフガニスタンからの米軍を主体とする多国籍軍の撤退が進む中、想定以上に早い親米欧政権の崩壊と反政府武装勢力ターリバーンの全土制圧・復権が成った。

なぜこれほど早く?という問いも向けられているが、答えは簡単で、前政権は張子の虎だったからである。つまり、アメリカ自身も想定していたはずである以上に、米軍が存在しなければ、たちまち崩壊してしまうような傀儡政権だったということになる。

肝心な政府軍も政権のために血を流すつもりがなく、各地に展開していたはずの政府軍部隊が戦わずして投降したのであるから、不戦敗・不戦勝のようなものである。ターリバーンにとってみれば、まさに戦わずして勝つ孫子の兵法を地で行ったことになる。

よって、今回のターリバーンの全土制圧は、そそくさと国外に脱出した旧政権のガーニ大統領とターリバーンの間で水面下の何らかの密約があったかどうかにかかわらず、非公式ながらも平和的な政権移譲に等しいものであった。

それだけに、復刻ターリバーン政権を承認するかどうかでは、各国が難しい判断を迫られることになる。ターリバーンは表向き穏健色を打ち出しているが、これが本物かどうかの見極めが難しい。

筆者は第一次政権当時の実質に鑑みて、ターリバーン体制を現代型ファシズムの一形態として論じたことがあった(拙稿)。このような体制とどう向き合うかは、あたかもかつてのナチス・ドイツとの向き合い方に似た状況を作り出す。イギリスは当初、宥和の立場を取り、反ファシズムのはずのソ連もドイツと不可侵条約を結んだが、後に高い代償を支払うことになった。

もっとも、現ターリバーンは20年前の旧ターリバーンとはメンバー構成がある程度入れ替わっており、内部には穏健派が実際に存在する可能性もあるが、こうしたイデオロギー集団の力学の常として必ず強硬派がおり、今後、両派の間で権力闘争や内戦が生じる可能性もあるだろう。

いずれにせよ、アメリカをはじめとする米欧の旧駐留諸国は、ターリバーンの制圧を時期の遅速はあれ予測して撤退した以上、ターリバーン政権を承認しないのは自己矛盾となりかねないが、承認すれば前政権を見捨てたことを自認することになるというジレンマに直面する。

一方、中国やロシアは承認の方向に動く可能性があるが、一見ターリバーンとイデオロギー的に相容れない両国が前向きなのは、地政学的な要所にあるアフガニスタンを押さえておくという戦略のみならず、これも筆者が以前指摘したように、現在の中・露の体制が形は違えど現代型ファシズムの要件に該当し得る点で(拙稿1拙稿2)、ターリバーンとも接点を見出し得るからだとも考えられるところである。

各国ともパンデミックへの対処に追われる中、時代が再び20年前に巻き戻されたような新局面であるが、とりあえずは、中世からタイムマシンに乗ってやってきたかのような集団が現代的な政府を運営できるのか、それともかれらの「理想」どおりに中世のイスラーム国家への復古を目指すのか、お手並み拝見ということになるだろう。

いずれにせよ、以前の稿でも明言したように、ターリバーン政権の帰趨は、これを受容・服従するか、抵抗・打倒するか、アフガニスタン国民の自己決定次第である。

 

[追記]
26日、多国籍軍機による避難民移送作戦が続くカブールの空港で、米軍兵士10人以上を含む多数が死亡する自爆テロが発生した。これには1980年、隣国イランでの米大使館占拠事件で人質救出作戦に失敗し、米軍に死者を出した当時のカーター政権の既視感がある。この一件はカーターの再選に影響し、共和党レーガンの圧勝を導いた。大統領選間近だったカーターとの違いは大きいが、バイデンの失敗は、2024年大統領選で共和党トランプの復権を導く可能性もある。事後処理が注目される。

[追記2]
バイデン政権は、上掲自爆テロへの報復として、8月29日にドローン攻撃を実施したが、誤爆により子ども7人を含む民間人10人を殺害したことが判明した。鼬の最後っ屁というが、あまりに非道な屁である。

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