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共産論(連載第58回)

2019-07-15 | 〆共産論[増訂版]

第10章 世界共同体へ

共産主義革命の最終到達点は世界共同体。言葉のあやでなく文字どおりの「地球村」の創設である。ここに至って初めて恒久平和が地球に訪れる。それを現実のものとするには?


(1)ドミノ革命を起こす

◇マルクスとエンゲルスの大言壮語
 かつて冷戦時代に反共主義の国際政治ドクトリンとして、ドミノ理論なるものが風靡したことがあった。これは、インドシナ戦争当時の米国がベトナムへの軍事介入を正当化するにあたり、アジア地域における共産主義革命のドミノ倒し的連鎖の危険性を強調したことで悪名高い俗流政治理論である。しかしこのドミノ理論、案外革命理論として逆利用できそうな面がある。
 前章でも論じたように、共産主義革命は一国単位でなし得るものではなく、世界的な革命のうねりの中で初めて成功し完遂されるのであった。
 若き日のマルクスとエンゲルスは「共産主義は主要な諸国民の行為として一挙的かつ同時的にのみ可能」だと述べ、その前提条件として「生産諸力の全般的な発展及びそれと連関する世界交通」を指摘していた。世界同時革命!
 彼らがこれを書いた19世紀半ばにはほとんど大言壮語としか聞こえなかったであろうが、交通手段・情報通信技術の大発達を経た現在、「世界同時革命」は決して夢物語ではなくなっている。
 少なくとも主要国間に短期間で革命が継起するという連続革命的状況を作り出すことは決して不可能ではない。そのためにも、前に論じたような共産主義社会の実現を目指す民衆の革命的ネットワークとしての世界民衆会議の結成がすべての起点となる。

◇革命の地政学
 ここで如上の連続革命が実際どのように発生し得るのか、革命の地政学とでも言うべきものを明らかにしてみたい。
 まず、革命の最初の導火線はどこで引かれるであろうか。意外にも、それは発達した資本主義国のどこかにおいて、と答えておきたい。資本主義が強力に定着した国での共産主義革命など一見不可能事とも思えるが、資本主義が発達すればするほどその限界性も同時に鋭く明瞭に露呈してくる。それだけに、革命の可能性はかえって現実のものとなるという逆説が成り立つのである。
 わけてもアメリカ合衆国である。アメリカ共産主義革命!!
 “進歩派”の米国人でも、これを悪いジョークと受け止めるかもしれない。しかしコミュニティー自治を基礎とし、政府に依存しない自助と共助の風土を持つフロンティア精神の社会であるアメリカこそ、本連載が提起するような共産主義―米国人の心にも響くようにこれを「自由な共産主義(free communism)」と呼ぼう―に最適の場所だということに米国人自身が気づいた時、アメリカ合衆国発の世界連続革命が始まることを期待できる。
 そして、そうなった時、その波及効果は絶大であるに違いない。おそらく、それは欧州、日本など世界の他の発達した資本主義諸国にも直接的に波及し、革命的なうねりを作り出すであろう。そこから、まさしくドミノ倒しのように、米国から中南米へ、欧州からアフリカ・中東へ、さらにはアジア諸国へ・・・といった後発資本主義諸国への革命の流れが続くであろう。
 これら後発国では専制的な政治体制に支えられていまだに大土地所有制や露骨な形の階級差別が残存していることも少なくなく、革命のマグマは相当に鬱積している。こうした諸国のいくつかでは民衆蜂起型の革命も見られるかもしれない。
 これに対して、新興資本主義諸国―ここに「社会主義市場経済」の中国も含めておく―では、まだ資本主義的発展の伸びしろが残されており、人々の資本主義に対する期待感も根強いことから、革命の波及は容易でないかもしれない。
 実際、これら新興国のめざましい資本主義的経済成長は、近年かげりも見えてきた米欧日のような先発国にとって製品・サービス及び資本の輸出を通じた経済再生の鍵ともみなされている。
 他方、ロシア・東欧圏の集産主義から資本主義へ「復帰」した諸国では、資本主義的階級格差の再発現や社会保障制度の劣化などの症候が早くも現れ始めていたところへ世界大不況の直撃を受けたのであるが、これら諸国では資本主義に対する幻滅以上に、旧体制が空文句として唱えていた似非“共産主義”に対する不信、憎悪さえもが残されているだけに、それら諸国における共産主義革命には一定以上の時間を要するであろう。
 とはいえ、中国を筆頭に右肩上がりを続ける新興諸国にも必ず「成長の限界」は訪れる。その結果、当面は新興諸国が牽引役となる世界経済の成長が総体として鈍化・縮退する極点が現れる。そうなれば、資本主義の限界に対する共通認識がグローバルに拡大する。
 その時機こそがまさに世界連続革命の本格的な開始点であり、その際、先発資本主義諸国における共産主義革命の勃発は、その他諸国の民衆に対しても出発の合図となるはずである。

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