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共産論(連載第52回)

2019-07-01 | 〆共産論[増訂版]

第9章 非武装革命のプロセス

(2)対抗権力を作り出す

◇未然革命
 革命のプロセスの中では、旧体制瓦解・革命体制樹立のクライマックスが突如として現れるのではなく、そこへ至るまでの未然革命のような段階がある。つまり、まだ現存している支配体制と同時に革命体制の骨組みのような未完の体制とが並存・拮抗する状況である。これを「対抗権力状況」と呼ぶ。
 こうした状況は、まず世界民衆会議において世界共同体憲章(案)を制定し、世界共同体の暫定的な樹立を宣言することから、正式に開始される。これを受けて、各国各圏域で民衆会議の結成・展開が完了すれば、その段階で原初の対抗権力が作り出される。なぜなら、この民衆会議自体が革命後にはそのまま公式の統治機構へ移行することを予定しているからである。
 しかし、こうした対抗権力状況を生じさせるには、民衆会議の民主的正統性を広く人々に認知してもらい、革命の意義と集団的不投票への参加を呼びかけていくうねりを作り出さねばならない。それがまさしく難儀だということは、率直に認めざるを得ない。
 まず、民衆会議こそ真の多数派を代表する政治機関―言わば「真の有権者団」―であるということを認知させるには、潜在的共感者を含めれば民衆会議こそが多数派を代表していると主張できるだけの数的優位性を築けるかどうかが鍵となる。
 さらに未然革命段階における民衆会議の活動実績として重要なのは、対抗的立法活動である。特に、革命成就後の最高規範となる憲章の制定である。加えて、貨幣経済によらない環境持続的な計画経済の制度設計やその他の主要な基本法も未然革命の段階で用意しておく必要がある。

◇集団的不投票の実行
 しかし、何と言っても技術的に最も困難を伴うのは、非武装革命の中心を成す集団的不投票の組織化である。前述したように、公職選挙における当選に必要な最低得票数は法律上意図的に極めて低く設定されているため、棄権率が若干低下した程度では、選挙の法的効力にはいささかも影響を及ぼさない。
 そこで、選挙が法的に無効となるレベルまで棄権を組織化しなければならないわけだが、そんなことが果たして可能かどうか―。これは、世界史的にも前例のない未知の挑戦となる。
 たしかにすべての公職選挙を完全に無効としてしまうような集団的不投票を実行することは理論上可能であっても、実際には不可能かもしれない。しかし、極端に投票率の低い公職選挙は法的に有効であっても政治的には正統性を失う。  
 そのような状況では、街頭デモのような民衆行動の後押しも受けて民衆会議が革命を成功に導く可能性も開かれてくるであろう。従って、前章でも論じたように、集団的不投票という革命の方法は純粋にそれだけで成功するという性質のものではなく、各国の時と状況によっては民衆蜂起のような手法との組み合わせとなることはあり得よう。
 そうした革命的事態を回避するため、既成国家が義務投票制を導入し、あるいは導入済みの義務投票制の罰則を強化してくる可能性がある。この場合は、処罰を恐れず良心に従い棄権を実行する不服従運動を組織しなければならない。
 棄権者が多ければ多いほど、警察等による棄権の取り締まりは事実上不可能となるので、棄権者の数を増やしていくための情宣活動が不可欠である。

◇政治的権利としての「棄権」
 その際、壁となるのは、「棄権」を有権者の任務放棄とみなす思想である。たしかに、世界中で通説となった西洋ブルジョワ政治学の通念によれば、投票は有権者の神聖なる権利であって、我々の清き一票を通じて希望の未来が切り拓かれるのであるからして、棄権は未来を閉ざす愚行であり、有権者としての任務放棄であるとされる。
 しかし、「棄権」にも単に政治的無関心からする「懈怠的棄権」と、革命を目指すより積極的な意思表示としてする「革命的棄権」とを区別することができる。新しい非武装革命の方法としての棄権とは「懈怠的棄権」ではなくして、「革命的棄権」であることは言うまでもない。
 革命前民衆会議はこのような政治的権利としての棄権=革命的棄権という新たな思想を全世界に効果的に広めていく必要があり、これに成功しない限り、非武装革命も実現することはない。

◇対抗権力状況の確定
 ともあれ、毎回の公職選挙で棄権率が増大し、既成議会・政府の正統性に揺らぎが生じていく中、いよいよ露わになった資本主義の限界に対処する能力を失った既成議会・政府に見切りをつけ、民衆会議こそが我々の真の政治的代表機関だとの意識が広く高まったところで、既成議会・政府に対する全般的不信任の行動として、議会・政府を不成立とするトドメの集団的不投票が決行される―。
 これで革命完了となるのではなく、これで如上の未然革命としての対抗権力状況が確定し、ようやく革命のスタート地点に立てるのである。  
 多くの諸国では、選挙後も何らかの事情で新政権が成立しない間は前政権を存続させたり、政権代行者を立てるなどして権力の空白を作り出さないよう予め憲法上の用意がなされているため、仮に集団的不投票が功を奏して新政権が成立しなくとも、旧体制は法的に居座ることができる仕組みが組まれている。  
 ほとんどの場合、この残存旧体制は民衆会議に対する政権の移譲を拒み、革命体制の樹立を全力で阻止しにかかるであろう、と予測しておいてよい。そこで、さらにその先のプロセスを想定しなければならない。

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