ザ・コミュニスト

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犯則と処遇(連載第9回)

2018-11-30 | 犯則と処遇

7 矯正センターと矯正スタッフ

 矯正処遇の実施機関となるのが「矯正センター」であるが、「刑務所」とは異なり、もはや鉄格子も塀も備えず、建物外観はともかく、内部構造上は治療施設に類似したような施設となる。
 とはいえ、「矯正処遇」は自由を拘束する処遇であるから、「矯正センター」入所者は許可なく外出することは禁じられ、無断外出者に対しては追跡と拘束が行われるが、無断外出自体を改めて逃走の犯則に問うことはなく、単にペナルティーとして必要的な処遇更新事由(処遇期間の延長)とされるにすぎない。
 同様に、センター内での各種規律違反に対しても、それが新たな暴行、傷害その他の犯則に当たるような場合は別として、原則として譴責以上の処分は科せられず、ただ違反の内容に応じて処遇更新事由とされるにすぎない。

 センター内での生活は個室で営まれ、入所者同士の接触に伴ういわゆる悪風感染や暴力行為を防止する一方、外部者との面会については、例えば加入していた反社会組織メンバーとの面会のように、矯正の妨げとなることが明らかな場合を除いては原則自由とする。また、読書や外部との通信も自由で、インターネットの利用も一定の有害サイトフィルター付きで認められる。

 なお、矯正センターは純粋に処遇の実施のみを担い、同センターの申請に基づいて上述の更新を決定したり、また「終身監置」を司法機関に請求したりするのは、矯正に関する知見を有する有識者や法律家で構成する「矯正審査会」である。 
 「矯正センター」とは別個独立に設けられる同審査会は、上記の任務のほかに、矯正処遇対象者からの各種苦情申立ての審査と是正勧告も行うオンブズマン機能も備えた中立的な機関である。

 「矯正処遇」の現場となる「矯正センター」で入所者の矯正に当たるのは「矯正員」である。矯正員はいわゆる「看守」ではなく、純粋に矯正実務の専門家、矯正科学の実践家である。前章でも見たとおり、「矯正処遇」は現行自由刑とは比較にならないほど科学的な観点から効果的な矯正を目指す制度であるから、矯正員は矯正科学に関する十分な素養を持つことが要求されるのである。

 一方、矯正センターには一定の所内秩序の維持が必要であるが、そうした所内秩序の維持=警備と矯正の機能は完全に分離され、センター内の警備業務に当たるのは矯正員とは別枠で採用される「警務員」である。

 ところで、矯正処遇では矯正員を中心に、チームで矯正が行われるが、このような処遇チームに参画するスタッフとして、臨床心理士や医師の資格を有する「処遇専門員」が常勤する。
 これら処遇専門員は、特に治療的処遇が行われる第三種矯正処遇において、処遇チーム内の専門的な討議を通じて、処遇対象者の矯正に従事する。その他、処遇専門員は必要に応じて、第一種及び第二種矯正処遇においても、処遇対象者の個別矯正に関わることがある。

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犯則と処遇(連載第8回)

2018-11-30 | 犯則と処遇

6 矯正処遇について(下)

 前章で、「矯正処遇」にはさらに細分化された種別があると述べたが、その種別としては軽いものから順に、第一種から第三種まで三つの区分を想定することができる。この種別を分ける基準となるのは、反社会性向と病理性の強弱である。
 従って、司法機関による各種別の選択決定にあたっても、刑罰とは異なり、結果の重大性とか犯行態様の悪質性などといった応報的要素によるのではなく、反社会性向と病理性の程度を科学的に判定したうえで決せられるのである。

 具体的に見ていくと、まずは「第一種矯正処遇」であるが、これは1T=1年とし、法定更新は1年ごとに2回まで(最長3年)、裁量更新は2年を年限として(通算5年が上限)認められる種別である。これに該当するのは、比較的軽微な犯則行為者で、病理性も弱いが、反復性が認められ、一定以上の反社会性向を持つ者である

 次いで「第二種矯正処遇」であるが、これは1T=3年とし、法定更新は1回目2年、2回目1年を限度に(最長6年)、裁量更新は4年を年限として(通算10年が上限)認められる種別である。これに該当するのは、反社会性向は強いが、病理性はさほど強くない者である。

 最も重いのは「第三種矯正処遇」である。これは1T=5年とし、法定更新は1回目3年、2回目2年まで認められ(最長10年)、裁量更新は認められない代わりに「終身監置」が予定されている種別である。これに該当するのは、病理性の強い者であるが、その中でも精神医療的対応を必要としない「A処遇」とそれを必要とする「B処遇」とにさらに下位区分される。 

 なお、「終身監置」は、前章でも述べたとおり、例外的な矯正困難者に対する処分であるから、改めて司法機関による決定を絶対条件として、極めて慎重な運用が要求される。
 ただし、「終身監置」に付された場合でも、再犯の危険が相当程度に除去されたと認められるときは、通常の保護観察よりも行動制限の強い特別保護観察付きでの「仮解除」が許され、「仮解除」の間にさらに改善・更生が進めば「本解除」も許されるというように柔軟性を持たせる。

 以上の三種の「矯正処遇」に共通しているのは、もはや懲役刑におけるような労働(刑務作業)の強制はないということである。「矯正処遇」の中心はどこまでも矯正のためのプログラムそのものである。

 その具体的な内容も三種別で異なっており、反社会性向がさほど強くない者を対象とする「第一種矯正処遇」では外部講師を招聘しての講話や対象者同士でのワークショップのような集団的処遇が中心となる。
 これに対して反社会性向が強い者を対象とする「第二種矯正処遇」では心理セラピーやカウンセリングなどのより個別的な処遇が中心を成す。
 さらに病理性の強い者を対象とする「第三種矯正処遇」ではよりいっそう個別性が強化され、全体として治療的な処遇が中心となる。特に「B処遇」では臨床心理士や医師も加わったチームによる医療的な対応が行われる。

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