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奴隷の世界歴史(連載第26回)

2017-10-31 | 〆奴隷の世界歴史

第三章 世界奴隷貿易の時代

北米のブラック・セミノール
 新大陸における逃亡奴隷マルーンの中でも独異な形態を取ったのが、北米のブラック・セミノールと呼ばれる集団である。これは、アメリカ南部の逃亡黒人奴隷がフロリダの先住民族セミノールの居住地へと避難することによって形成された新たな部族集団である。
 当時のフロリダはスペイン領であり、大西洋奴隷貿易に参入し、中南米では黒人奴隷を使役していたスペインは、北米では英国への対抗上、英国植民地内の黒人奴隷にフロリダ逃亡を奨励していたのである。
 スペイン当局はかれらを解放し民兵として組織したが、他方でスペイン民兵とはならず、独自に共同体を形成したマルーンのグループもあった。こうしたグループは現地の先住民セミノールとの関わりを深めた。北米先住民には独自の奴隷慣習があり、マルーンはセミノール首長の奴隷となることで庇護された。
 もっとも、このセミノール奴隷は通常何らかの強制労働に従事させられる奴隷とは異なり、マルーンは武装した独自の共同体を持ち、セミノール首長に家畜や作物を上納することで庇護を受けるという農奴的な関係性のものであった。こうしてマルーンはそのアフリカ起源の慣習を維持しつつ、セミノールにも同化し、独自の軍事共同体を構成し得た。これがブラック・セミノールである。
 ブラック・セミノールの運命は18世紀後半から19世紀前半にかけて、英国割譲、スペイン返還、アメリカ編入とめまぐるしく変化したフロリダの情勢に大きく左右された。独立したアメリカ合衆国はブラック・セミノールの解体と逃亡奴隷の返還を目指していた。
 親英/スペイン派であったセミノール自体も合衆国の標的となっており、19世紀に三次にわたるセミノール戦争が発動された。そのうち最も長く1835年から42年まで続いた第二次セミノール戦争はブラック・セミノールのハイライトであった。
 この戦争の要因は、セミノールとブラック・セミノールをまとめて不毛な西部オクラホマ準州へ強制移住させる合衆国の政策にあった。この裏にブラック・セミノールの奴隷復帰という狙いを嗅ぎ取ったブラック・セミノールは戦争と並行して、農園でのゲリラ的な奴隷反乱を煽動・支援したのである。
 結局、合衆国の勝利に終わった戦後、ブラック・セミノールはオクラホマへ移住させられたが、その一部は離反してメキシコへ集団逃亡し、現地で民兵となった。残留者はそのままセミノールとして暮らし、奴隷制廃止後は自由人開拓者となった。

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