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近未来日本2050年(連載第14回)

2015-08-07 | 〆近未来日本2050年

三 思想/情報統制政策(続き)

思想教育
 2050年における議会制ファシズムと戦前の軍国体制とが最も近似性を示すのは、学校における思想教育である。議会制ファシズムにおける思想教育の軸は「愛国防衛教育」に置かれる。この点、ファシスト与党のある文科大臣は「公立校では愛国防衛教育以外は必要としない」と発言、与党内からも極論との苦言が出るも、この失言に議会制ファシズムの教育指針が象徴的に表れている。
 とりわけ2050年頃には体制エリートの有力な給源となっている公立系中高一貫進学校には義務的な防衛軍体験入隊があり、防衛教育が徹底されている。これは一部識者から「現代の軍事教練」と批判されるが、一般校での防衛教育は基本的に座学であり、体験入隊のような教練は含まれない。
 議会制ファシズムが教科的に特に力を入れるのは、社会科と道徳科である。特に社会科にあっては政府・与党の公式見解以外の見解は教科書から一掃され、それ以外の見解、特に公式見解に反する見解を教えた教員は処分対象となる。
 中でも歴史教育に関する締め付けは厳しく、戦前の帝国主義支配について否定的な授業を個人で続けていた公立高校教員が国家尊厳法違反で逮捕・起訴される事件すら起きている。これはファシスト政権が「20世紀における日本の軍事行動は自衛自存のための愛国的行動であった」との公式見解を提示しているためである。
 一方、道徳は議会制ファシズムが成立する以前の時代に独立教科化されていたところ、議会制ファシズム体制では社会科と並ぶ最重要科目と位置づけられ、愛国主義教育が徹底される。ここでの愛国主義はもはや精神論にとどまらず、「諸外国の反日宣伝に対し毅然として反駁することは日本国民の崇高な責務である」とする積極的な行動論とされる。
 こうした思想教育を円滑に実施するうえでも、旧来の教育委員会制度は廃止され、より統制的な教育庁・教育局/部制度に転換されている。また教育公務員の採用に当たっては国家情報調査庁と連携して厳格な身元・思想調査がなされ、野党支持者やその親族は排除されているとも言われるが、実態は不明である。
 他方、国公立大学には産官学連携運営が法律上義務化されているため、思弁的な学術の性格上連携が困難な文系学部は経済・経営学系、法・行政学系等の実学的部門を除き、消滅している。かつて憲法上の原則でもあった大学の自治は否定され、大学は国益及び公益を害しない範囲内での限定的な自主権を持つにすぎないとされるため、大学における思想の自由は事実上排除されている。

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