ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

近未来日本2050年(連載第11回)

2015-07-11 | 〆近未来日本2050年

二 国防治安国家体制Ⅲ

厳罰化政策
 ファシズムの司法政策面の特質として、治安秩序確保を目的とした厳罰化政策がある。厳罰化政策はすでに現時点で先行的に発現しているが、2050年にはいっそう明瞭に打ち出されているだろう。
 その象徴となるのが、死刑制度の強化である。刑法に「加重殺人罪」の規定が新設され、被害者が複数の場合や犯行態様が残酷な場合の法定刑は死刑又は無期懲役刑のみとされることから、殺人罪での死刑判決が急増するだろう。
 さらに死刑執行を確保するため、死刑執行促進法が制定され、かねてより刑事訴訟法に定められた判決確定から六か月以内の死刑執行義務が厳格化される。また被害者側に法務大臣に対する早期死刑執行の申し立ての権利が付与される。その結果、死刑執行がほぼ毎月行なわれるようになるだろう。
 2050年になると、死刑制度を存置する国はいっそう減少し、国際社会からの死刑廃止圧力も高まるが、日本はイスラーム圏や中国とともに、強硬な死刑存置同盟を形成している。
 他方、懲役刑でも重罪での無期懲役刑や最長50年まで延長された長期の有期懲役刑が増加し、刑務所人口の超過密化やそれに伴う処遇環境の悪化による獄死者の増加などの問題も生じているだろう。また殺人罪などの重罪では少年法の適用が全面的に排除され、少年受刑者も増加する。
 2009年から施行の裁判員制度は存続しているものの、裁判員公募・選抜制に転換され、死刑を含む厳罰主義に同意できる者限定で、現行の六人制から二人制に縮小される。こうした裁判員裁判を担当する裁判部署は「国民裁判部」と称されている。
 こうした厳罰化政策には知識層からの批判もあるが、ごく少数にとどまり、「国民感情に答える司法」というスローガンの下、一般社会ではむしろ好意的に受け止められているだろう。

コメント

近未来日本2050年(連載第10回)

2015-07-11 | 〆近未来日本2050年

二 国防治安国家体制Ⅱ(続き)

警察支配社会
 ファシズムの特徴として、警察の支配力が強化されることがあるが、このことは議会制ファシズムにあっても変わらない。2050年の日本では「高度安全社会」をスローガンに、警察制度が拡大改組されているだろう。
 具体的には、戦後民主主義の象徴でもあった国家公安委員会・警察庁の二元的な警察行政は一元的な国家公安省へ改組され、国家公安大臣が警察権を掌握する。また都道府県警察は一都道州制移行に伴い廃止され、国家公安省が管轄する国家警察に一本化される。ただし、特例として東京都は独自警察(警視庁)を維持する。
 また現行の機動隊は全国規模の国家警備隊として統合独立し、国家公安省の下で一元的な集団警備力として運用されるようになる。国家警備隊は、有事には海上保安庁とともに防衛軍の指揮下に編入される。
 国家警察に一本化されるに伴い、地域警察と政治警察(公安警備警察)の役割分担も相対化し、地域警察でも犯罪防止活動に合わせて、政治的な監視が行なわれるようになるだろう。 
 そうした相対化の象徴として、不審者通報制度が徹底される。ここでは、不審者の定義が大幅に拡大され、挙動不審者のみならず、外見不審者から思想不審者まで含むとされるため、不審者通報が殺到するようになる。これに対して、警察では事件・事故通報の110番とは別に、不審者通報専用ホットラインを設置して対応している。
 また監視カメラの設置管理を警察が一元的に行なうようになり、国家公安省主導での「監視カメラ3000万台計画」―2050年時点での人口約9500万比でほぼ3人に1台―の下、24時間体制の監視カメラ運用センターが稼動している。
 さらに、警察官職務執行法が改正され、罰則付きの職務質問応諾義務が課せられる。職務質問を拒否した場合、一年以下の懲役刑が科せられる。これに合わせて、外出時における顔写真付きマイナンバーカードの常時携帯・呈示義務も課せられ、違反に対しては反則金が課せられるだろう。
 また学校の安全確保を名目とする学校警察制度が創設され、大学を除くすべての国公立学校に警察官が常駐するようになる。国公立大学にあっても、所轄警察署との連絡官を常置する義務を課せられる。
 こうした警察支配社会に対しては批判もなくはないが、それは一部知識人層に限られ、知識人にあっても、思想不審者通報を恐れ、発言を控える傾向が広く定着しているため、検証に付されることはほとんどないだろう。

コメント