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近未来日本2050年(連載第12回)

2015-07-24 | 〆近未来日本2050年

三 思想/情報統制政策

国家尊厳法
 ファシズムにおける思想面の特質として、国家を至上価値に置くことがあるが、この特質は議会制ファシズムにあっても発現する。2050年の日本では、昭和憲法が基本原理とした「個人の尊厳」は否定され、「国家の尊厳」に取って代わられているだろう。
 この憲法原理に基づき、国家尊厳法が制定されている。国家尊厳法は現行の国旗国歌法を拡大再編した思想統制法であり、名称のとおり、国家の尊厳を護持することを目的とする法律である。その柱は全国民の国家への忠誠義務であるが、訓示法の性格が強かった旧国旗国歌法とは異なり、国旗国歌を貶める行為を国旗国歌冒涜罪と規定し、最大5年の懲役刑が科せられるようになる。
 これにより、例えば国旗掲揚・国歌斉唱が義務付けられる学校行事で教職員が国旗敬礼や国歌斉唱を意識的に拒否することは犯罪行為となり、各地で反抗的な教職員の検挙が相次ぐ。また生徒が同様の行為をした場合も非行として法的に処理されるようになる。
 それだけにとどまらず、国家尊厳法には、「歴史認識」を含め、日本の国益を害するとみなされる表現活動全般を犯罪行為として最大で10年の懲役刑を科す反国家宣伝罪の罰則規定が設けられる。この規定は乱用防止を名目として、第三者の告発をもって訴追される親告罪とされる。
 しかし、それによってかえって市民間の相互監視的な雰囲気が強まる。「反日言論」の検索・告発を専門とする市民団体が各地で立ち上がり、告発を活発に行なうため、言論の萎縮が高度に進行する。特に告発されやすいテレビ番組では、国策批判的な内容の番組は民放を含め、ほぼ一掃される。
 こうした国家尊厳法の適正な執行を確保するためとして、検察庁に国事犯係検事が置かれるようになり、軍国期の「思想検事」の復刻との批判も一部に見られるが、そうした批判さえもまた「反日言論」とみなされかねない状況となり、口にする人は少ないだろう。

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