ずっと購読している『くらしと教育をつなぐ We』誌2020年2/3月号で坂上香さんの関西での上映がまだの「プリズン・サークル」を取り上げてもらってとても嬉しかった。坂上さんのリストラブ・ジャスティス(修復的司法)を追究する作業は、「ライファーズ」や「トークバック」で何年もかけての取材、制作姿勢で明らかであったとはいえ本作は10年仕事である。実は、日本の刑務所に民間委託ができると聞いた時大きな違和感を覚えた。小泉政権下で進められた「官から民へ」の急激な変化は、規制緩和の名の下に本来民間に任せてはいけないだろうと思われる業界にまで浸透し、不安定・低収入の非正規雇用の増大を生み出し、サービスは官なみ(という表現、実態が正しいかどうかはさておき)に低く、収入は民なみ(の過剰サービスと働きすぎ)に低いという現実を生み出したからである。刑務所など民に任せたら、ますます受刑者の処遇が悪化するのではないかと感じた。しかし、島根あさひ社会復帰促進センターで実際導入されているTCユニット=更生プログラムでの取り組みは、驚くべき実践だ。他者を加害する人間は、幼少時にひどい加害経験を受けた人が多いという研究は知られているが、それを明らかにするとともに自己を見つめ、同じ境遇の受刑者と分かつことで更生に繋げるプログラムは、再犯を防ぐ=犯罪を減らす、という意味でとても有用である。そのプログラムを丹念に撮る坂上監督には一度犯罪者になった者でもそうでない生き方を回復できる、それは修復の力によるものという信念があるのだろし、賛成できる。ただ、島根あさひの受刑者、TCに参加する受刑者は年少者が中心で、死刑囚(は、TCどころか服役中の制限は多い)などの重大事犯はない。「ライファーズ」のように重大事犯にまで広げられるかどうかが今後のTC拡大にかかっている。
とここまでは「プリズン・サークル」を観る前に書いたもの。映像はこの国の刑務所にカメラが入ったというだけでも驚異的であるのに、受刑者の素顔(といっても顔にはブラーがかけれている)と、おそらくは心の底から紡ぎだし、初めて他者に吐露したであろう言葉によって彼らの「回復」が描かれているのが本当にすごい。そう、人には言葉が必要であるのに、犯罪者となった彼らには言葉が奪われてきた。その反対に肉体的暴力を受けてきた。「暴力の連鎖」と一言で片付けるわけにはいかない。自己に対する暴力に無感覚になると、他者に対するそれも無感覚となり、被害への想像力が生まれない。そういった子ども時代の虐待を生きてきた彼らは、居場所も帰るところも、休まるところもなかったし、世の中にそういう場所があることさえも知らなかった。それを語る言葉をやっと得たのだ。
坂上香監督自身が中学生時代に凄まじい集団リンチを受け、親からの虐待も経験、より弱い立場の弟に対しては加害者となった「暴力の連鎖」を体現していたために、なぜ人は残虐になれるのかに関心を持ち、追究してきたという。そしてその粘りによって公開まで10年の歳月をかけたのが本作である。TC受刑者は、再収率(刑法犯を犯して再び収容される率)が受けていない者の半分以下というから、その効果は明らかだ。しかし受刑者4万人に対し受講者できる者はたった40人。島根あさひでは初犯者に受講を限っているが、再犯者やより重い罪を犯した者にも広がってほしい。「人は人の中で生き直すことができる」のだから(『くらしと教育をつなぐWe』誌2020年2/3月号の特集表題。『くらしと教育をつなぐWe』はフェミックス(http://www.femix.co.jp)刊。『ジソウのお仕事』(https://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/3511eee03c4e43beccd6466aef756e18)でも紹介した出版社である。)
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