たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

吹き出物、咳、腹痛

2008年04月21日 22時31分49秒 | 医療人類学

写真は、足にニキビというのか吹き出物が腫れて、歩くことができなくなって、しくしく泣いてばかりいるプナンの女の子(6~7歳)の処置をしたときの様子である。なんらかの原因で、菌が繁殖し、炎症を起こしたのだろうか。父親は、腫れた芯の部分を鍼でついて、膿を出した。プナンは、このような腫れた状態をバー(baa)と呼んでいる。今年の3月には、そのような症状の人たちが、わたしの周囲に、少なくとも4人はいた。顔、首、お尻、太腿など、それは、いろんなところに現れて、人びとを苦しめた。わたしは、ひそかに、彼らが、イノシシの脂身を大量に食べるので、このような症状が出るのではないかと思っているが、詳しいことは分からない。

Jは、夜な夜な、ひどい咳(miket)に悩まされていた。蚊帳のなかで、ゴホンゴホンと、咳が止まらない。痰をひんぱんに吐き、苦しそうだった。眠れないとも言った。わたしも、何度となく、咳の音に起こされた。昼間は、その症状はおさまり、彼は、いつも、短いときには、5分と間隔を明けずにタバコを吸った。市販のものではなくて、タバコの葉を枯葉に包んで、スパスパとやった。わたしは喉が痛くなって、とてもそれを吸うことができない。
プナン社会で、フィールドワークを始めたころ、咳をする人たちには、タバコを控えたほうがいいと忠告してきた。日本で、たいていそう考えられているように。しかし、わたしに耳を貸すようなプナンは、誰一人としていなかった。Jには、あまりに咳がひどいので、わたしは、タバコを吸うのをやめるように進言した。しかし、彼は、昼間にスパスパとタバコを吸うのを止めなかった。プナン人は、どうやら、タバコを吸うことが喉を痛めて、結果として、咳を治りにくくしているとは考えていないようなのである。

わたしが、腹が痛い(magee buri)とき、プナン人は、それならば、お前の持っている薬を飲めという。腹が痛い、下痢だと言っても、その後、米があれば、ふつうに、わたしに大盛りのごはんを給仕してくれる。だんだん分かってきたことは、
プナンは、腹が痛くても、いつものように、きっちりと食事をするということである。腹を空っぽにして、安静にしているというようなことは、どうやら思いもつかないらしい。下痢のときにでも、しっかりと、ごはんやサゴデンプンを食べる。そうすることで、腹痛はしだいに治ると考えているようである。実際、そのようにして、プナン人たちは、腹痛を治しているようである。腹が減ったときに食べていれば、腹痛や下痢などは治ってしまうということなのだろうか。

もう一度、このあたりから、医療と文化について、考えてみなければならないのかもしれない。それは、医療人類学の出発点なのかもしれないと思う。


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