たんなるエスノグラファーの日記

エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために

腰痛小考

2009年05月30日 22時46分18秒 | 医療人類学

今週の木曜日授業がなかったが、いつものようにずっとオフィスでデスクワークをしていた。昼すぐに、椅子から立ち上がろうとしたときに、腰に違和感があった。午後からも椅子に腰掛けていたが、夜にオフィスを出るときには、腰痛がやや激しくなっていた。翌日には、さらに、痛みはひどくなっていた。夜には、週末の用事の幾つかをキャンセルせざるをえないまでになっていた。今朝、家の近くの整形外科でレントゲンを撮って見てもらったら、椎間のクッションが劣化しているところに負荷がかかり、腰痛になったのではないかとのことであった。これからも腰痛は起きますよ、と驚かされてショックを受けて、とりあえずのところの治療をしましょうとよと促され、電気治療などを受けて、帰ってきた。コルセットも付けている。腰痛で診療所に行ったのは初めてであるが、近年、一年に1回くらいの割で、腰痛になっている。なぜ医者に行かないかとと考えていると、毎年、プナンのフィールドワークに行っている間に腰痛になるということに思いあたった。狩猟キャンプに行くまでの長い道のりを重い荷物を担いで歩いたりすると、決まって、腰が痛くなるのだ。日ごろから運動をしていないせいだくらいに思っていたが、はたしてそうなのだろうかと、レントゲン写真を見ているときに思った。そうしたことをつれづれに考えていて思い出したのは、プナン人は、腰痛にならないということである。彼らは、わたしの腰痛を、背中痛(sakit lekot)と表現した。狩猟民プナンは、わたしたちが使っている腰痛という言葉を持っていない。プナンには、腰痛がない。わたしの経験としては、腰痛に苦しんでいるプナン人にお目にかかったことはない。さきほど、ふと思い出して、昨年NHKスペシャルでやっていた『病の起源』の腰痛のビデオの撮り置きを、探し出して、見てみた。ヒトが二足歩行するようになって、腰を自由に動かせるようになって、長距離移動などが可能になった。その二足歩行という進化のなかに、腰痛の起源があるという従来の通説に挑戦するのが、どうやら、その番組の狙いのようである。本も出ている(NHK「病の起源」取材班『病の起源①』、NHK出版)。その番組のなかで、タンザニアの狩猟採集民ハザの人びとが、腰痛知らずであるという状況が紹介されていた。彼らは、狩猟のために、一日当たり28キロも歩くという。腰痛とは、彼らにとっては、木から落ちたときになるようなものであり、それは、わたしたち現代人が抱える腰痛とは、種類のちがうものである。農耕以前の狩猟採集形態に、基本的に、腰痛がないのだとすれば、腰痛は、二足歩行の宿命であるという説は説得力を失うことになる。他方で、農耕の作業は、ヒトの腰に過重な負荷を加えることになった。番組は、さらには、現代社会における腰痛の心因的な側面に迫っていた。職場環境、家庭環境などなどのストレスフルな状況が、腰痛をつくり出しているということが分かり、現在、心療および医療の両面から研究が進められている。じつは、腰痛という現象については、まだほとんど何も分かっていない・・・。それが、番組の主な流れであった。わたし自身は、自らが直面するストレスフルな状況に照らして、その最後の腰痛の心的な要因の説明に、妙に、納得させられた。

(写真は、狩猟キャンプのプナンの子どもたち)


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1 コメント

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腰痛の真の原因はストレス? (勢口秀夫)
2009-05-31 00:01:30
始めてですか~?腰痛?
 
今回は軽いぎっくり腰(急性)ですね。

真の原因を取り除かないとこれから何度も慢性の
腰痛に悩まされると思います。

私は、すっかり腰痛から解放されました。

最近撮ったMRIでも、腰椎狭窄症とヘルニアが
写っているのですが、それは腰痛には関係がない
のです・・・

私はこれで腰痛から解放されました。

よろしければ、URLを参照ください。



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