たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



わたしたちは、日々何を食べて生きているのだろうか。今日何を食べたのかですら、わたしは、もうすで忘れかけているが、それを思い出しつつ書き出してみよう。今日のわたしの一日の献立は;

朝)ジャムを塗ったトースト、卵焼き、野菜炒め、ベーコン炒め、コーヒー
昼)コンビニの幕の内弁当、カップスープ
夜)ごはん、味噌汁、鶏のから揚げ、揚げ豆腐、まぐろの刺身

であった。
それは、日本人のごくふつうの献立である。

ここに、サラワクのイバンの1980年と2003年の献立表を比較した研究がある(Motomitsu, Uchibori 'Rivers and Ridges: Changes in Perception of natural Environment among the Iban of Sarawak', Comparative Study on Local Perception of Natural Environment and Landscapes among Peoples of Sarawak, Report of the Research Conducted in Sarawak with a Grant-in-Aid for Scientific Research, Japan Society for Promotion of Science(2000-2003))。

その献立表は、人類学者が食べたものの一覧であるが、23年の時を隔てて提示された献立表を見くらべてみると、いくつかの明らかなちがいが浮かび上がる。
かつては、毎食食されていたイノシシ肉が、23年後には皆無になり、かつては、ラーメンなどがたまに食事に出されただけだったものが、近年では、ソースなどを含めて、市販されている加工食品が多く使われるようになった・・・そのような変化を手がかりとして、イバンの生活環境、とりわけ、焼畑をしながらも森に大きく依存しながら生きてきたイバン人の自然環境およびそれに対する認識の変容を解読しようとすることは、ひじょうにスリリングだと思う。

さて、プナンの献立である。以下は、わたしが食べたもののある2週間の記録である。

◆2006年10月31日
朝)魚のスープ、魚の油揚げ、ごはん
昼)ごはん、ラーメン
夕)サル肉(焼いたもの、炒めたもの)、魚のスープ、ごはん
◆11月1日
朝)サル肉のスープ、蒸し魚、ごはん
昼)芋の葉と魚の缶詰のスープ、ごはん
夕)芋の葉のスープ、ごはん
◆11月2日
朝)魚のスープ、ごはん
夕)芋の葉のスープ、ごはん
夜中)イノシシ肉(焼いたもの)
◆11月3日
朝)イノシシ肉のもつ煮込み、ごはん
夕)イノシシ肉の油揚げ、ごはん、イノシシの頭の燻製
◆11月4日
朝)ラーメンと魚の缶詰のスープ、ごはん
昼)ラーメンと魚の缶詰のスープ、ごはん
◆11月5日
朝)野鶏と芋の葉のスープ
夕)ラーメンと魚の缶詰のスープ、ごはん
◆11月6日
朝)ラーメンとごはん
夕)野鶏のスープ、ごはん
◆11月7日
朝)野鶏の残り物、ラーメン、ごはん
夕)ラーメン、ごはん
◆11月8日
朝)イノシシ肉(焼いたもの)
昼)ラーメン、魚の缶詰、ごはん
◆11月9日
朝)ラーメン、ごはん
昼)猪肉の缶詰とゼンマイのスープ、ごはん
夕)芋の葉のスープ、魚の缶詰、ごはん
◆11月10日
朝)ラーメン、ごはん
夕)買った猪肉と野菜のスープ、ごはん
◆11月11日
朝)塩漬け魚のスープ、ごはん
夕)シカ肉の丸焼き、鹿肉のスープ、ごはん
◆11月12日
朝)魚の缶詰のスープ、ごはん
夕)魚ときのこのスープ、ごはん、サゴでんぷん
◆11月13日
朝)魚の揚げ物、野鶏の揚げ物、ごはん、スープ
夕)ラーメン、ごはん
◆11月14日
朝)ゼンマイと魚のスープ、ごはん
夕)野鶏のスープ、ごはん
◆11月15日
朝)ゼンマイのスープ、ごはん
昼)野鶏のスープ、ごはん
夕)ヤシの若芽、ラーメン、ごはん
◆11月16日
朝)焼き飯
昼)サル肉の揚げ物、サル肉のスープ、ごはん
夕)サル肉の揚げ物、サル肉のスープ、ごはん
◆11月17日
朝)ラーメン
昼)サル肉の揚げ物、サル肉のスープ、ごはん
夕)サル肉の揚げ物、芋の葉のスープ、ごはん
◆11月18日
朝)芋の葉のスープ、芋の葉の炒め物、ごはん、魚の揚げ物
夕)芋の葉のスープ、芋の葉の炒め物、ごはん、魚の揚げ物
◆11月19日
朝)焼き飯
昼)野鶏のスープ、ごはん
昼2)ラーメン、ごはん
◆11月20日
朝)野鶏のスープ、ごはん

この期間、わたしは、狩猟キャンプで暮らした。献立をリストアップすると、ずいぶんと狩猟肉を食べていることが分かる。イノシシ肉、シカ肉、サル肉は狩りで捕らえたもの。野鶏は、わなで捕らえたものである。魚は、ふつう、魚網で捕らえる。これらを見る限り、季節にもよるが、B川のプナン人の居住地には、周囲に動物資源が豊かであるといえそうである。

プナン人は、基本的には、動物肉があるときには野菜類(ゼンマイや芋の葉など)を食べない。逆に、動物肉がわずかしかないとき、あるいは、ないときに、女たちが野菜を採集しに行く。

食料があるときには、一日に3食食べるけれども、ないときには、2食あるいは1食というときもあった。おかずが何もないときには、ごはんと塩ということもあったが、上の期間では、わたしは、おかずが何もなかったときに、ソースでごはんを炒めもらって、焼き飯を食べた(11月16日)。プナン人は、食べ時というものを決めていない。空腹になったら食べる。あるときには何度でも食べるけれど、ないときには、食べない。食べられない。

プナンは、サゴでんぷんをアメ状にしたものを主食としている。ふつう、ごはんをべた後に、それを食することが多い。わたしは、通常、ごはんを食べると満腹になったので、サゴデンプンをほとんど食べなかった。米は買ったものである。

何年か後にふたたび献立をとって上のものと比較したり、あるいは、他の場所の他の人類学者の献立と比較してみたりしたら、面白いかもしれない。

(写真は、丸焼きにされたサル)
 



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