じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

馳星周「少年と犬」

2020-07-29 16:19:37 | Weblog
★ 馳星周さんの「少年と犬」(文藝春秋)から表題作を読んだ。この作品集は「多聞」という犬と人間との関りあいが描かれている。発表順に従って、表題作から読み始めた。

★ ある夕暮れ時、内村徹が運転する軽トラの前に、一匹の犬が現れた。随分と衰弱している。 

★ 内村徹の家族は東日本大震災で被災した。今は熊本に移住している。震災の恐怖のためか一人息子の光は感情を表すことができなくなった。言葉も失った。

★ 徹が助けた犬は、マイクロチップで「多聞」という名前だとわかった。不思議だったのは、震災で亡くなった元の飼い主が釜石に住んでいたということだ。「多聞」は5年かけ、岩手から熊本へとやってきいたことになる。

★ 「多聞」が内村家にやってきて、光に笑顔が戻った。それは内村家全体を明るく照らした。やがて光と「多聞」にはある縁があることがわかる。そんな時、彼らを再び災難が襲う。熊本地震だ。

★ ここからあとの物語は涙なくしては語れない。

★ 前世の縁というものがあるのかどうかわからない。しかし、ナニモノかが犬に姿を変え、人間に寄り添うということは、ありそうだ。

★ このあと、「多聞」の5年間の足取りが語られそうだ。
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遠野遥「破局」

2020-07-29 09:22:37 | Weblog
★ 7月30日に初版、私が買ったのは6刷(8月9日発行)だ。「新星」の登場に出版社の期待が感じられる。

★ 遠野遥さんの「破局」を読んだ。青年(大学4年生)の「生と性」を淡々とした文章で描いている。

★ 主人公は陽介君。高校時代はラグビーで活躍し、今は大学に通いながら、後輩の指導に当たっている。引き締まった肉体は継続している筋トレの成果だろう。肉体美のせいか女性にも事欠かない。今は政治家志望の麻衣子と付き合っているが、最近、彼女は忙しいらしく、陽介の欲求不満が高まっている。そんな時、灯という新入生と出会う。陽介君は麻衣子から灯に乗り換えたのだが・・・。

★ リア充のうらやましい限りの青年だが、浮遊感、漂泊感が印象的だった。「帯」に引用されている場面。彼はある日、ベッドで仰向けになり世の人々の安穏を祈るのだが、そもそも「私は神を信じていない」とオチがつく。

★ 彼が規準としているのは「彼氏だから」と彼女を大切にし(また性的関係を結び)、「公務員志望だから」と道徳的な振る舞いに努めること。

★ 三田誠広「僕って何」(1977年)、村上龍「限りなく透明に近いブルー」(1976年)、村上春樹「風の歌を聴け」(1979年)、田中康夫「なんとなくクリスタル」(1980年)など若い頃、楽しく読んだ。それから40年。青年の生き方も、文章表現も大きく変わったようだ。

★ 「破局」は独白調で、陽介君は実に淡泊に語っている。彼女との関係や周りの人々との関りもドライだ。性的な描写も即物的ではあるが行為そのものはねちっこくない。結構ハードにやっているようだが、描写は抑制的だ。彼にとって「気持ちいいから」以上の思い入れがないからかも知れない。

★ 淡白な語りの裏に語りつくせない熱情があるのだろうか。それを語らないことで、行間を読み取らせようとしているのか。それとも本当に冷めているのか。

★ もはや「新人類」は死語となり、今や「新新人類」の時代なのかも知れない。
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